ねこから人に感染する病気

獣医師が監修しました
工藤 綾乃 先生

獣医師

人獣共通感染症

多くの感染症を引き起こす病原体には種特異性があります。つまり、ねこの感染症はネコ科にしかかからず、人が風邪をひいていても、それがねこにうつることは基本的にありません。しかし、一部の病気はねこから人に、または人からねこに感染することがあります。このように、動物と人の間で感染する感染症を人獣共通感染症と呼びます。

 

ねこから人にうつる病気

ねこから人にうつる病気にはどのようなものがあるのか、そして、感染を防ぐためには何が必要なのかを知っておくことが大切です。ここでは、一般的な人獣共通感染症の一部を紹介します。

猫ひっかき病

バルトネラ属の細菌に感染したねこに噛まれたり、ひっかかれたりすることで人に感染する細菌感染症です。日本にいるねこの約1割がこの細菌を保有していると報告されています。感染しているねこは無症状であることも多いので気づかないことが多いですが、人に感染すると疲労感や頭痛、全身の痛みが生じます。また、噛まれたりひっかかれたりしたところに水ぶくれやぶつぶつができることがあります [1]。

皮膚糸状菌症

糸状菌は真菌(カビ)の一種です。糸状菌に感染しているねこに人が接触すると感染することがあります。感染したねこでは、頭部や四肢などの皮膚の脱毛や紅斑、水疱、痂皮(かさぶた)などが認められ、人では、皮膚に輪の形をした紅斑や水疱が見られます。糸状菌は感染力が強いため、治療せずに放置しておくと他の人や動物に感染が広がり続けてしまいます。そのため、感染したねこは動物病院へ連れていき、薬が入ったシャンプーや投薬で糸状菌を駆除しましょう [1]。 

トキソプラズマ症

トキソプラズマは原虫の一種で、ほぼすべての哺乳類と鳥類に感染します。

外に出ることがあるねこの場合、ネズミや鳥と接触することがあります。そのときに、ねこがトキソプラズマに感染した小動物を食べてしまうと感染し、ねこを介して人にも感染してしまうことがあります。

多くの場合、特に成猫では感染しても症状が出ないことが多いですが、免疫が弱っている状態(猫伝染性腹膜炎猫免疫不全ウイルス感染症などの感染症にかかっている状態や、ストレスがかかっている状態)では発症することもあります。発症すると、発熱や呼吸困難、妊娠している場合は流産や死産を起こすことがあります。

人では、HIV感染者や妊娠している人、化学療法を受けて免疫が弱っている人で症状が重くなることがあります。発作や肺の病気、妊娠している人で流産や死産、新生児での神経障害などを引き起こす可能性があります [1,2]。 

Q熱

コクシエラ属の細菌によって起こる感染症です。この細菌は感染動物の糞尿、乳汁、羊水などとともに排泄されるため、ねこの出産や流産のときに人に感染することがあります。日本でも毎年30人前後の人で感染が報告されています。

感染動物は症状がないことが多いですが、妊娠している動物は流産や死産を起こすこともあります。一方、人が感染すると、発熱や頭痛、筋肉痛、呼吸器症状などを引き起こす急性型、または心内膜炎などを引き起こす慢性型の経過をとる可能性があります [1,3,4]。

狂犬病

狂犬病は感染し発症してしまうと、ねこも人もほぼ100%死に至る恐ろしいウイルス感染症です。狂犬病に感染したねこに噛まれた場合には、人に感染する可能性があります。

幸い、現在日本では狂犬病の発生はありませんが、日本の周辺国を含む世界のほとんどの地域で発生しており、いつ日本に入ってきてもおかしくない状況です。狂犬病にはワクチン接種が有効で、いぬには狂犬病ワクチンの注射が義務付けられています。ねこではまだ一般的ではありませんが、もし海外にねこを連れていく場合は必ず予防注射をしておきましょう [5]。

人獣共通感染症の予防

病気を予防する上で効果的な方法の一つに予防接種がありますが、残念ながら、全ての病気に対してワクチンがあるわけではありません。ワクチンのない感染症に感染するリスクをさげるためには、できるだけねこは外に出さないようにし、他のねこや動物から病気をもらわないようにすることも有効でしょう。

 

 

参考文献
1. 動物の感染症 第三版 近代出版
2. NIID 国立感染症研究所. トキソプラズマ症とは. niid.go.jp/ 参照日: 2022.01.03
3. 厚生労働省. Q熱. mhlw.go.jp/ 参照日: 2022.01.03
4. NIID 国立感染症研究所. Q熱とは. niid.go.jp/ 参照日: 2022.01.03
5. 厚生労働省. 狂犬病 mhlw.go.jp/ 参照日: 2022.01.03

 

監修者

工藤 綾乃 先生 (獣医師)

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。