猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症は、予防が命

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工藤 綾乃 先生 獣医師
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猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症とは

レトロウイルス科の猫免疫不全ウイルス(FIV)、通称猫エイズとも呼ばれるウイルスが原因で起こる病気です。 感染ルートは可能性の高い順に、以下の3つが考えられます。

① FIVに感染しているねこに咬まれる

② 感染ねこからの輸血

③ 垂直感染(母ねこから生まれるときや、授乳時に起こる感染)

最も多い感染ルートは、FIVに感染しているねこに咬まれることによる感染です。唾液中に含まれるFIVが咬傷から感染します。感染ねこからの輸血によって感染する可能性もあります。 一方、垂直感染は自然界では稀です。また、交配による感染は現在のところ証明されていません [1, 2]。

感染したFIVは、ねこの免疫に関連する細胞を徐々に破壊していきます。最終的にFIVに感染したねこは免疫がはたらかない状態になってしまい、様々な症状が現れてしまうのです。ちなみに、人のエイズ(HIVウイルス感染症)とは原因となるウイルスが異なり、FIVは人に感染しません。

 

症状

FIVに感染したねこは、すぐに免疫が働かない状態(免疫不全)になるわけではありません。FIV感染症の進行は大きく3段階に分けられます。

急性期:感染から数か月程度

主な症状……

発熱、リンパ節腫大、白血球減少、貧血、下痢など感染してから4~6週後ごろから現れ、約数週間~数か月程度持続します [2]。

無症状期:急性期後、数か月~数年

この時期は特に臨床症状を示しません。数か月~数年持続します [1]。

末期(猫エイズ)

主な症状……

免疫異常に伴う口内炎、歯肉炎、上部気道炎、消化器症状、皮膚病変など原因となる病原体……細菌、ウイルス、真菌(カビ)、寄生虫など [2]

末期の症状は、免疫不全により、健康であればかからないような病原体に感染することで生じます(日和見感染症)。日和見感染症の他にも、リンパ腫などの腫瘍や、神経症状なども発症する可能性があります [2]。 

このように、末期になると深刻な状態となってしまいます。しかし、無症状期が長いため、FIVに感染していても、病気にかからないように気を付けたり、ストレスを減らしてあげることで、比較的長い期間他のねこと同じように生活することができます。

 

検査

FIV感染症の検査では、血液中のFIVに対する抗体の有無を調べることが重要です。 抗体とは、感染が生じたときに病原体を体から排除するために作られるたんぱく質の一種です。つまり、抗体がある=感染したことがある、ということです。 抗体検査では、検査時期について以下の2点に注意しましょう。

1. 感染直後の検査

FIVでは、感染直後に行なった検査では感染が確認できない場合があります。なぜなら、検査で見つけられる量の抗体がつくられるまでに、感染してから4~6週程度かかるからです。すなわち、その間は感染しているけれども検査では見つけられない期間です。そのため、感染の可能性のあるねこについては、1回の検査だけではなく、時間を空けてもう一度検査する方が良いでしょう。

2. 生後6か月未満の検査

母ねこがFIVに対する抗体を持っている場合、妊娠や授乳を通して子ねこに抗体が移行する場合があります(移行抗体)。この移行抗体と感染によってできた抗体は区別ができないので、子ねこの感染の有無を正確に調べることができません。移行抗体は遅くても生後6か月くらいまでに子ねこの体内から無くなりますので、6か月齢以上に成長したあと、もう一度検査を受けるとよいでしょう。

POINT

屋外に行くことのあるねこの場合は、定期的にFIVの検査を受けましょう。

 

治療法

残念ながら現在、FIVに感染したねこに対する効果的な治療法はありません [1]。そのため、FIVに感染してしまったねこに対しては、現れた症状にあわせてステロイド剤や抗生物質の投与を行う対症療法が基本となります。 FIV感染症では、FIV感染症そのものの症状よりも、免疫異常によって起こる二次感染が原因で亡くなってしまうことが多いです。そのため、抗生物質などによる二次感染のコントロールがとても重要です。

ちなみに、まだ標準治療ではありませんが、FIV感染症に対する効果が期待されている薬もあります。人のエイズの治療に用いられている薬や、ウイルス感染時の治療に使われているインターフェロンγ(ガンマ)・ω(オメガ)などです [1, 4]。体調や感染段階により治療は異なるため、獣医師とよく相談しましょう。より効果的な薬の開発のために、今後のさらなる研究に期待したいです 。

 

予防

現状効果的な治療法が見つかっていないため、予防することが何よりも大切です。効果的な予防法は、以下の2点です。

完全室内飼育にする

一番の予防法は完全室内飼育にし、屋外のねこと接触させないようにすることです。完全室内飼育のねこのFIV保有率は1%に満たないのに対して、屋外のねこが多い地域では25~30%になるとも報告されています。特に雄ねこは縄張り争いなどで他のねこと喧嘩をすることもあり、雌ねこと比べて感染するリスクが高くなっています [1]。

ワクチンを接種する

FIVに対するワクチンは、動物病院で打つことができます。しかし、その有効性はまだ完全には示されていません。予防としてワクチンを使うことは良いことですが、ワクチンを打っているから大丈夫、と屋内外を自由に行き来させることは安全とは言い切れません。また、ワクチンを打ったねこには抗体ができますが、FIVの感染による抗体と、FIVワクチンによる抗体は区別ができません。そのため、病院でFIV感染の有無を調べるときには、ワクチンを打っていることを獣医師に伝えるようにしてください。

参考文献
1. Saunders Manual of Small Animal Practice (Third Edition). R.G. Sherding, p.126-131

2. Canine and Feline Infectious Diseases. J.E. Sykes, p.209–223

3. Therapeutic Effects of Recombinant Feline Interferon-ω on Feline Leukemia Virus (FeLV)-Infected and FeLV/Feline Immunodeficiency Virus (FIV)-Coinfected Symptomatic Cats. K. de Mari et al., J Vet Intern Med. 2004.

4. Use of recombinant interferon omega in feline retrovirosis: From theory to practice. A. Domenech et al., Vet Immunol Immunopathol. 2011.
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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