苦しそう、吐きそうで吐かない。もしかして咳かも?ねこの咳の仕方と原因について

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工藤 綾乃 先生 獣医師
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ねこの咳

咳は、呼吸器が刺激されることによって生じます。刺激の例として、呼吸器の圧迫、化学物質の吸引、呼吸器の炎症、温度変化などがあります。

ねこはあまり咳をしない動物なので、ひどい咳をする、咳が続くといった場合は異常が隠れている可能性が高いです。しかし、ねこの咳は人の咳と仕方が少し違うので、知っていないと分かりにくいかもしれません。

典型的な咳症状は、あごを前に伸ばして舌を少し出し、激しい咳のときは床に首やお腹を擦り付けるような体勢になります。人のように大きな音は出ず、小さな音、またはゼーゼーという音がして「苦しそう」「吐きたそう」に見えることもあります。咳の後には、舌なめずりをして口の中の痰を飲み込むようなしぐさが見られることが多いです。一度動画などで見ておくと見分けやすいでしょう。

原因

ねこが咳を起こす原因の一部を見てみましょう。

・気道内異物

気道内に異物が入ってしまった場合、体外に出そうとして咳をすることがあります。ほこりを吸い込んでしまったときやフードが喉につかえたとき、水が気管に入ってしまったときなどがこれに当たります。咳によって異物が排出されれば咳はおさまります。

・上部気道感染症(猫風邪など)

上部呼吸器に病原体が感染して炎症がおこると、それが刺激となって咳が出ます。原因となる病原体として、猫ヘルペスウイルスや猫カリシウイルス、猫クラミジアなどが考えられます。咳のほかに、鼻水や目やに、発熱といった症状も出ることがあります。

・肺炎

ウイルスや細菌、真菌などが原因で肺炎となり、その症状として咳が出ることがあります。咳のほかにも、元気がなくなったり呼吸が荒くなったりといった症状が出ることが多いです。

・喘息

アレルギーが原因の呼吸器の疾患です。ハウスダストやたばこ、芳香剤、揮発性の化学物質などが原因となる可能性があります。これらの原因を取り除いてあげることで症状の発生がおさまることが多いです。

・腫瘍

気管、気管支、肺などの呼吸器に腫瘍ができることで、気道が圧迫され、咳がでることがあります。

・トキソプラズマ症

トキソプラズマは原虫の一種です。感染してもほとんどのねこは症状を示しませんが、子ねこや免疫力が低下しているねこでは症状がでることがあります。咳の他、下痢や発熱などの症状がでることもあります。

・フィラリア症

フィラリアは寄生虫の一種で、蚊によって媒介されます。フィラリアの幼虫が体内に侵入した後、肺の動脈に到達したときに咳の症状が出始めることがあります。

上記以外にも、咳が出る原因はあります。咳の頻度が少なくても症状が数日以上続く場合、または同時に元気や食欲がなくなるようであれば病院を受診しましょう。

 

診断のために行う検査

どういう状況で咳が出始めたのか、咳が出始めた頃に環境に変化が無かったか、といった情報は咳の診断に重要です。また、ねこが咳をしている時の動画も診断に役に立つことがあります。

その他、咳の原因を調べるためには、次のような検査をします。

・血液検査

ねこの健康状態を調べる他、アレルギーが原因の場合は好酸球という血球の一種の割合が正常よりも上昇する場合があります。また、ウイルス、フィラリア、トキソプラズマなどの感染が疑われる場合にも血液検査は有用です。

・X線検査

気道に異物が入り込んでいないか、肺に腫瘍がないか、喘息や肺炎を示す所見がないかなどを調べます。

・CT検査

肺などの器官に異常が起こっていないか、腫瘍がないかなどをより詳細に調べることができます。検査には全身麻酔が必要になります。 

その他、気管支鏡といった器具を用いて気管の中を直接観察する検査を行なうこともあります。

咳を引き起こしている原因が分かれば、それぞれの原因に適した治療を行います。

 

予防

猫カリシウイルスやヘルペスウイルス、クラミジア、フィラリアなどの感染は、ワクチンにより症状または感染を抑えることができます。その他の感染症や病気によって起こる咳などは、ねこの生活環境を清潔に保ち、かつ、ねこにとってストレスの少ないものにしてあげることで防ぐことができる場合があります。

また、芳香剤や整髪用スプレーなどが喘息の原因となることもあるので、猫の近くでの使用はなるべく控えるようにしましょう。

新鮮な食事や水、清潔なトイレ、環境の変化をできるだけ減らしてあげるなど、日ごろから気を付けてねこの健康を守ってあげたいですね。 

参考文献
1. Coughing in Small Animal Patients. B.M. Hsieh and A.K. Beets. Front Vet Sci. 2019.
2. Bacterial pneumonia in dogs and cats. D. Jonathan. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2014.
3. Prevalence and epidemiology of canine and feline heartworm infection in Taiwan. T.L. Liu, et al. Parasit Vectors. 2017.
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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