ねこのデンタルケア・スケーリング

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工藤 綾乃 先生 獣医師
目次

歯垢と歯石

口の中にはたくさんの細菌が存在します。特に食餌が残留すると、細菌が増殖しやすくなります。歯垢とは、増殖した細菌が塊となって歯の表面に付着したものです。きれいな歯の表面にも24時間以内に歯垢が付着し始めると考えられています [1]。歯垢が唾液中のミネラルと結びついて石灰化すると歯石になります。ねこの唾液はアルカリ性で、人よりも歯垢が歯石に変わりやすい口内環境です。歯垢は自宅でのケアで取り除くことが出来ますが、硬い歯石に変わると取り除くのは難しくなるでしょう。

 

歯垢や歯石がたまると起きる病気

歯垢と歯石がたまると、歯肉炎、歯周病、歯根膿瘍の順に病気が進行し悪化していきます。

・歯肉炎

歯垢と歯石に含まれる大量の細菌が産生する毒素や代謝物によって、周囲の歯肉組織に炎症が生じます。この状態を歯肉炎と言います。歯石は表面がざらざらしているため、さらに歯垢が付着していきます。また、歯肉の腫れによって、歯と歯肉の隙間(歯肉ポケット)が生じ、歯垢が溜まります。こうして、歯垢と歯石を放置していると歯肉炎は進行していきます。

・歯周病

歯肉炎が進行すると歯肉ポケットが徐々に広がっていき、歯の根元にまで炎症が生じます。この状態を歯周病と呼びます。歯周病では、歯を支える歯槽骨が溶けて歯肉の辺縁が退縮し、歯の根元が露出していきます。歯のぐらつきがひどくなり、最終的には歯が抜けてしまうでしょう。

・歯根膿瘍

歯周病の悪化によって、歯の根元に細菌や膿が溜まって大きく腫れてしまう状態です。特に、上顎の臼歯で重度の歯周病が生じ、頬骨の下(猫を正面から見た時に、ちょうど目の下あたり)で膿瘍が起きることが多いです。膿瘍は、膿が排出しきれなくなると破裂して、皮膚に大きく裂孔を生じることもあります。

・その他の病気(口腔鼻腔瘻、下顎骨折)

歯周病の悪化により、歯の根元の骨が溶けると口腔鼻腔瘻や顎骨折を生じる恐れがあります。口腔鼻腔瘻とは、口腔と鼻腔を隔てている硬口蓋が溶けて、穴が開く病気です。口と鼻腔が通じてしまうため、食べたものが鼻腔に入り誤嚥につながる可能性があるため注意が必要です。

 

口腔のチェック方法

ねこの永久歯は、上顎の片側に切歯3本、犬歯1本、前臼歯3本、後臼歯1本、下顎の片側に切歯3本、犬歯1本、前臼歯2本、後臼歯1本の計30本あります。特に、犬歯と前臼歯は歯が大きくチェックしやすいと思います。唇をめくって、以下の項目に注意して歯を見てみましょう。

・歯の形に左右差がないか…欠け、大きな歯石の付着の有無

・歯の色…通常は白、歯垢はクリーム色、歯石は黄色~茶色

・歯と歯肉の境目…すき間の有無

・歯肉の色…赤く腫れていないか

・歯のぐらつき

また、歯肉以外の口の中の粘膜の色や形に変わったことがないかも注意しましょう。見た目以外にも、口元に痛みがないかどうかや、口臭やよだれの有無、食べ方のぎこちなさがないかなどもよく観察していきましょう。

 

自宅でのデンタルケア

若い頃からデンタルケアに努めることで、ねこも慣れてくれて高齢期にも継続しやすくなります。ただし、人間は自ら「歯周病を予防するために歯磨きしよう」と目的意識をもって取り組むことができますが、ねこはそうはいきません。ねこにとっては、なぜだか納得できないままに、一方的に口の中をいじられることは不快かもしれません。歯周病予防ケアは継続することが大切ですから、お互いにとって無理がないように、はじめが肝心です。うまく慣れていくために段階を踏みましょう。

①口元へのタッチに慣れる

顔周りを撫でながら頬をマッサージする流れで口角の辺りを触れるのに慣れさせていきましょう。コミュニケーションを取りながら、場合によってはおやつも使って触れ合いましょう。継続することでねこが慣れてきてから、少しずつ歯にも触れていきましょう。前歯だけでなく奥歯にも触れられることを目指しましょう。歯磨きジェルを使うとより効果的です。

➁こすり磨きに慣れる

奥歯まで触れられるようになったら、指にガーゼを巻いて歯をこすってみましょう。初めは、ねこが好きなフードやおやつを水で溶いて、ガーゼに染み込ませて味をつけておくと、ねこも抵抗なく続けられるかもしれません。慣れてきたら、市販のねこ用歯磨きペーストや歯磨きシートを使用するとより効果的です。

③いよいよ歯ブラシにチャレンジ

ねこの口や歯は人より小さいですから、ねこ用の歯ブラシを用意しましょう。ねこ用の歯磨きペーストを使いながら、歯の根元の歯垢を掻き出すイメージで優しく小刻みに磨きましょう。全ての歯を磨くのが理想的ですが、歯石ができやすい上顎の臼歯を優先してなるべく短時間で毎日できることを目指しましょう。

ねこの性格によっては無理に慣れさせようとトレーニングに努めるほど嫌がってしまう場合もあるでしょう。どうしても歯磨きが難しい場合は、口内環境に配慮したフードや歯磨きトイを選んで、獣医師と相談しながらねこに合ったケアができると良いでしょう。

スケーリング

自宅でのデンタルケアを継続しながら、定期的に動物病院で歯の検診を受けましょう。特に、硬くはり付いた歯石は、自宅での歯磨きで除去するのは難しいでしょう。また、歯の裏側をはじめ、歯磨きが行き届かない部分がどうしてもあるでしょう。そのような歯垢・歯石の蓄積がある場合は、動物病院で専門機器を使ったクリーニングをする必要があります。この処置をスケーリングと呼びます。 スケーリングでは、以下の理由で全身麻酔が必要です。

・口腔内全体を詳細に診るため

・ねこが動かない状態で、安全に処置するため

・目に見える歯垢・歯石だけでなく歯肉ポケットもクリーニングするため

全身麻酔によるねこの負担もありますから、ねこの状態を考慮して獣医師と相談しながら進めていきましょう。高齢になって歯周病やその他の病気を抱えてしまう前に、計画的に検討しましょう。 ねこが生涯を快適に過ごせるように、コミュニケーションの一環としてデンタルケアを生活に取り入れていけるといいですね。

参考文献
1. World Small Animal Veterinary Association Global Dental Guidelines. Niemiec B. J Small Anim Pract. 2020 Jul.
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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