ねこの尿管閉塞

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工藤 綾乃 先生 獣医師
目次

尿管閉塞とは

尿管閉塞のお話をする前に、尿路、尿管、尿道の違いをご説明します。尿路とはおしっこが腎臓でつくられ、膀胱に溜められて排出されるまでの通り道の全体を指します。尿路のうち、2つある腎臓と膀胱を繋ぐ管のこと尿管をいい、膀胱から先を尿道といいます。

尿管閉塞は、ねこにおいて珍しくない病気です。なぜ、閉塞してしまうのでしょうか?

その理由として、ねこの尿管が非常に細いことが挙げられます。ねこの尿管は内部の太さが0.4mmといわれるほど細いため、小さな結石などで簡単に塞がってしまうのです。尿管閉塞の原因は結石以外に血餅(血が固まったもの)などがありますが、8割程度は結石によるものといわれています。ちなみに尿路にできる結石にはいくつか種類がありますが、ねこの尿管結石の場合、ほとんどがシュウ酸カルシウムという成分によるものだという報告があります [1,2]。

 

症状

じつは、尿管結石を疑う特徴的な症状はありません。食欲が落ちたり、吐いてしまったりという症状が生じることがありますが、これらは他の病気でも起こりえます。閉塞が起きた直後は痛みがでるため、うずくまって動かない、抱き上げることを嫌がるという症状がみられることもあります。ただしこれらの症状は2つある尿管のうちの片方のみが閉塞したときの症状です。両方の尿管が詰まってしまうと、尿が出せなくなってしまうため急激に体調が悪くなります。急性腎障害を生じたり、さらに進行するとショック状態に陥ることもあります。

 

診断のために行う検査

尿管結石には特徴的な症状がないことから、診断のためにはさまざまな検査が必要になります。

血液検査

急性腎障害や電解質のバランスの崩れなどを評価します。

尿検査

腎臓の機能評価や、尿の中に細菌感染がおきていないかを調べます。場合によっては、適切な抗生剤を選択するために感受性の検査を検討します。

X線検査

結石の有無やその個数、腎臓の大きさなどを確認します。

エコー検査

腎臓になにか変化がないか、尿管閉塞による尿管の拡張がないかを評価します。また、X線画像に映らないような小さな結石も検出しやすい検査です。ただし、ねこの尿管は非常に細いうえに蛇行して曲がっていることもあるので、1回の検査では診断するのが難しいことがあります。

 

治療

尿管閉塞と診断された場合には、状態が安定している場合とそうでない場合で治療が異なってきます。状態が安定している場合には、必ずしも手術の適応とはならず、尿路を広げて結石が尿管から出やすくするような飲み薬で様子をみることがあります。

急性腎障害の症状が生じていたり、腎臓への負担が重度の場合には点滴などで状態を改善させたのち、閉塞の原因を取り除く手術を検討します。尿管結石に対する手術は大きくわけて2つあります。ひとつは尿管を切って石を取り出してしまう方法(尿管切開術)です。もうひとつは尿管とは別に、尿の通り道となる管を新しく体の中に入れる方法(SUBシステム設置術)です。どちらが適応になるか、適切かはねこの年齢や状態などで異なります [3]。

 

自宅で注意できること

尿路中に結石をできにくくすることが、尿管閉塞の予防につながります。飲水量を増やし、おしっこをたくさんつくって腎臓から膀胱までの尿の流れをよくすることで結石ができにくくなります。飲水量をふやす工夫として、陶器や循環式で水の流れがあるものなど、ねこが好むとされている水入れを試してみてはいかがでしょうか。特に冬場は、飲水量や運動量が減るため注意が必要です。普段どれくらいの水を飲んでいるのかを測るためにも、器に何mlの水が入るのか確認しておきましょう。また、ミネラルを過剰に含んだ水(井戸水やミネラルウォーターなど)は結石の原因になるのであげないようにしてください。

尿の性状はごはんによっても変わってきます。いろいろなメーカーから結石をできにくくするようなフードが販売されています。結石の種類や腎臓の状態で、適切なフードは違ってくるのでお気軽に病院でご相談してみてください。

参考文献
1. 岩井 聡美『猫の尿管結石』日本獣医麻酔外科誌、2021年
2. Outcomes of ureteral surgery and ureteral stenting in cats: 117cases (2006–2014). Wormser et al. J. Am. Vet. Med. Assoc. 2016
3. Use of a subcutaneous ureteral bypass device for treatment of benign ureteral obstruction in cats: 174 ureters in 134 cats (2009-2015). A C Berent et al. J Am Vet Med Assoc. 2018
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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