下痢や嘔吐が続く場合に疑われる、ねこの慢性腸炎について

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長尾 乙磨 先生 獣医師
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慢性腸炎とはどんな症状が生じる状態?

3週間以上にわたって下痢を頻繁に繰り返していたり、吐き戻しの回数が増えたり、それらの症状に伴って食欲が落ちてしまっている場合には慢性腸炎という状態が疑われます。慢性腸炎とは、様々な原因により腸の炎症が生じる病態です。ねこの慢性腸炎では嘔吐が増えることが最も一般的な症状と言われており、長期間症状が継続することにより、徐々に体重が減っていきます [1]。

慢性腸炎の分類

それでは、慢性腸炎のなかにはどのような病態があるのでしょうか。

消化管寄生虫

胃や腸などに寄生虫が入り込むことにより、下痢や嘔吐を引き起こしてしまいます。感染している他の生物の排泄物との接触により感染してしまうことが多いので、特にお外へ出ることの多いねこさんは注意が必要です。

ウイルス性下痢

猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスの感染により体内の免疫力が下がってしまい、慢性的な嘔吐や下痢を引き起こします。

食事反応性腸症(FRE)

食物の中に含まれる特定のタンパク質に対して自身の免疫が過剰に反応した結果、下痢が起きてしまう病気です。低アレルゲン食や、今まで食べたことのないようなタンパク質の含まれる新奇タンパク食を試験的に与えてみて、症状が治まった時にFREと診断されます。

抗菌薬反応性腸症(ARE)

腸の中で、一部の細菌が過剰に増えてしまうことで発生する腸炎です。試験的に抗菌薬(抗生剤)による治療を行ない、症状が治まった時にAREと診断されます。

炎症性腸疾患(IBD)

腸内細菌の問題や、免疫細胞の異常、遺伝的な問題など様々な説が提案されていますが、発生する原因は未だわかっていません。最近では免疫抑制剤反応性腸症と呼ばれることもあります。 

腸の腫瘍

腸の腫瘍の中で最も発生率が高いのはリンパ腫で、本来は体内の免疫を担うはずのリンパ球が腫瘍化して腸の組織の中で異常に増殖してしまうために下痢を引き起こします。リンパ腫には様々なタイプがあり、経過が緩やかで他の腸炎との見分けが困難なこともあれば、症状が急激に進行してしまう場合もあります。リンパ腫以外にも腺癌や、平滑筋肉腫などの腫瘍も考えられます。

また、上記以外にも肝臓の疾患や、膵臓の疾患、ホルモンに関連した疾患でも慢性的な下痢や嘔吐を引き起こすことがあります。

 

診断のために行う検査

便検査

腸内細菌のバランスが崩れていないかを確認したり、寄生虫の感染が起きていないかを調べる目的で行われます。下痢の原因となる、トリコモナスやジアルジアなどの寄生虫や虫卵は顕微鏡で発見することができます。ただし、うんちの一部のみを用いて検査を行うため、一度の検査で寄生虫が見つからなかった場合にも、寄生虫感染の可能性を完全に除外することはできません。

血液検査

慢性腸炎の診断のために特異的な血液検査項目はありませんが、肝臓・膵臓関連の数値や甲状腺ホルモンの測定を行なうことで、診断の手がかりが得られます。血液検査で明らかな原因がわからない場合には、詳しい腸の検査に進んでいきます。

エコー検査

腸や周囲の臓器の断面をエコー画像により確認することができます。腸の構造が崩れていたり、大きな腫瘤を作っていたりと診断のヒントになる所見を得られることがあります。

内視鏡検査・生検

ここまで行われた検査により、腸の組織の評価が必要な場合は内視鏡検査に進むことがあります。内視鏡検査では、喉または肛門から細いカメラを入れて腸の内部を観察します。腸の組織の一部を採材し検査を行なうことで、リンパ腫やIBDなどの診断を行うことができます。

 

治療

寄生虫

便検査で寄生虫が見つかった場合には、それぞれの寄生虫にあった駆虫薬を用いて治療を行います。

IBD

原因がわからない腸炎のため、ステロイドを用いた炎症の抑制が第一選択となります。ステロイドを使い始めてから症状が良くなる場合は少しずつ投薬量を減らしていきますが、完全には投薬を中止できない症例も多くあります。ステロイド単独での治療が難しい場合には、免疫抑制剤を併用することもあります。

消化器型リンパ腫

消化器型リンパ腫の治療の中心となるのは、抗がん剤です。リンパ腫のタイプに合わせて抗がん剤を選んでいきます。また、腸に腫瘤を作るタイプのリンパ腫では、腫瘤の部分を外科的に摘出する場合もあります。

慢性腸炎の原因は幅ひろく、症状だけでは判断が難しい病態です。何度も嘔吐や下痢の症状をぶり返していたり、食欲が落ちているような場合には、動物病院の受診を検討しましょう。

参考文献
1. Feline chronic enteropathy. S Marsilio. J Small Anim Pract. 2021.2. 獣医内科学 小動物編 日本内科学アカデミー編 文英堂出版3. SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE. 5th edition. interzoo
この記事を監修した人
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長尾 乙磨 先生 獣医師

山形県出身。東京大学を卒業後、同大学博士課程に在籍中。大学附属動物医療センターで診療活動を行っており、専門は消化器内科。学生時代からアメリカンフットボールをやっていることもあり、いぬねこの筋肉や脂肪、栄養学を専門として研究に奮闘中。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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