ねこのリンパ腫

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工藤 綾乃 先生 獣医師
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リンパ腫とは

リンパ腫は、ねこで最も多い腫瘍であり、ウイルスや細菌などの病原体と戦う免疫細胞の一種であるリンパ球が腫瘍細胞となり、異常に増え続けてしまう病気です。リンパ球は骨にある骨髄で作られた後、胸腺やリンパ節といったリンパ球が集まる臓器に移動し、その後全身に広がっていきます。リンパ球は体の多くの臓器に存在するため、全身のどの臓器でもリンパ腫は発症する場合があります。

リンパ腫は一般的に年をとってから発症する場合が多いため、加齢がリンパ腫を発症する原因の一つと考えられています。

一方で、若いねこでもリンパ腫を発症する場合があり、そういったねこではネコ白血病ウイルス(FeLV)ネコ免疫不全ウイルス(FIV)といったウイルスに感染している場合が多いことが知られています。このウイルスはねこのリンパ球の遺伝子を壊すことで、リンパ腫を発症しやすくすると言われています。

 

リンパ腫のタイプ

・発生部位による分類
ねこのリンパ腫は全身のどの臓器でも発生しますが、発生しやすい部位があることが分かっています。

具体的には、胃や腸などの胃腸管型リンパ腫の発生が最も多く、ついで全身のリンパ節が腫れる多中心型や、鼻腔型、腎臓型、縦隔型などが多いです。

なお、ネコがFeLVに感染した場合には、感染していない場合には発症率が低い、縦隔型リンパ腫や多中心型リンパ腫の発症が多くなると言われています。縦隔とは胸の中の臓器のことで、ここにリンパ腫が発生すると、呼吸が苦しくなどの症状が出てしまいます。FeLVは野良ねこや元野良ねこが感染していることが多く、室内飼いが増えた近年では、FeLVに感染したねこは減少しています。その減少に伴って、縦隔型リンパ腫や多中心型リンパ腫は減り、胃腸管型リンパ腫が診断されることが増えたと言われています。

・リンパ球の大きさによる分類
ねこのリンパ腫は、腫瘍となったリンパ球の大きさをもとに分類することができます。リンパ球の大きさは、他の細胞と比較することで評価します。大きいリンパ球が多いリンパ腫の場合には大細胞性、小さい場合には小細胞性と呼ばれます。一般的には、大細胞性の方が小細胞性より悪性度の高いリンパ腫と言われています。

・リンパ球の種類による分類
リンパ球は、大きくT細胞とB細胞に分類されます。T細胞はリンパ球自身が病原体を攻撃する場合が多い一方、B細胞は「抗体」を作り病原体を排除します。腫瘍細胞がT細胞性の場合とB細胞性の場合で、悪性度や治療法が異なる場合があります。

 

症状

発症部位ごとに異なる症状もありますが、元気がない、食欲がない、などの症状しか出ない場合も多くあります。

主な発症部位と症状は以下の通りです。

・胃腸管型リンパ腫:嘔吐・下痢などの症状が出る場合や、体重が減少する場合があります。

・鼻腔型リンパ腫:鼻水やくしゃみ、鼻血、顔の形が変わる、などの症状が出ます。

 

・縦隔型リンパ腫:呼吸が苦しくなる、などの症状が出ます。

多中心型リンパ腫:体中のリンパ節が腫れて大きくなります。顎の下や膝などのリンパ節が腫れて触れることもありますが、元気がない・食欲がない、などの症状で初めて気づかれることも多いです。

 

検査

・身体検査
体の表面のリンパ節や顔の形などに異常が無いか確認します。お腹を触診し、硬い腫瘤などが無いか確認します。

・血液検査
リンパ腫の悪性度によっては、血液中にリンパ腫の細胞が出てくる場合があります。また、リンパ腫が発症した部位によっては、肝臓や腎臓などの数値が上昇することもあります。

・画像検査
X線検査やエコー検査で、体のどこかに腫瘤が隠れていないか調べます。これらの検査でもよく分からない場合は、麻酔をかけるCT検査やMRI検査などが行われます。

・細胞診検査/組織診検査
細胞診検査は、腫瘤の細胞を細い針で採取し、顕微鏡で観察する検査です。細胞診検査で診断がつかなかったり、細胞が採りづらい部位の場合には、麻酔をかけて腫瘤の一部を採取する組織診検査をする場合もあります。

 

 

治療

治療方法はリンパ腫の発生部位や悪性度によって異なります。

・抗がん剤治療
リンパ腫の最も一般的な治療は、抗がん剤を用いた化学療法です。抗がん剤を使用する場合は、定期的に病院で抗がん剤を投与してもらい、検査を受ける必要があります。抗がん剤には様々な種類があり、腫瘍のタイプにあわせて選んでいきます。

抗がん剤と聞くと、重い副作用を想像される方が多いかもしれませんが、ねこの場合は副作用ができる限り起きないように投与量や間隔を調整して抗がん剤を使用することが一般的です。

それでも副作用は出てしまうことがあり、血液中の白血球の数が減って感染症になってしまったり、嘔吐や食欲がなくなる、などの症状が生じることがあります。

・外科治療
特に、胃腸管型リンパ腫などの場合には、外科手術で腫瘍を摘出する場合があります。摘出後には、状況に応じて、追加の抗がん剤治療が検討されます。

放射線治療
鼻腔型リンパ腫などの場合には、放射線治療が効果的な場合があります。放射線治療を受けられる施設は限られており、また、毎回の麻酔が必要になります。

メリット・デメリットを含めて獣医師とよく相談が必要です。

・対症療法
腫瘍に対する治療ではなく、リンパ腫によって出てきた症状を軽くしてあげるための治療です。

免疫抑制剤であるステロイドや、症状にあわせて吐き気止めや食欲増進剤などの内服を行います。

 

治療の経過

小細胞性リンパ腫の場合にはステロイドや経口の抗がん剤で1年以上延命ができる場合もあります。しかし、大細胞性リンパ腫の場合には、ステロイドのみの治療では数ヶ月以内に亡くなってしまう事が多いです。

抗がん剤や外科手術、放射線治療などを行っても、特に大細胞性の場合には、延命できる期間が長くないことが分かっています(リンパ腫の発生部位によっても異なりますが、大細胞性リンパ腫の場合は半年ほどともいわれています。)。

このように、リンパ腫は、発症部位によって症状が異なり、診断や治療が困難な場合もある怖い病気です。しかし、早期に診断ができれば治療が効いてくれることも多いため、ねこの異変に気づいた場合は早めに動物病院を受診してあげてくださいね。

参考文献
1. The histologic classification of 602 cases of feline lymphoproliferative disease using the National Cancer Institute working formulation, V E Valli, et al, J Vet Diagn Invest, 2000.

2. Prognostic analyses on anatomical and morphological classification of feline lymphoma, Hirofumi Sato, et al, J Vet Med Sci, 2014.
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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