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慢性腎臓病の食餌

獣医師が執筆しました
田中 由衣子 先生

獣医師

慢性腎臓病

ご存知の通り、腎臓は尿をつくる臓器ですが、食餌や飲み水が尿になるまでに細かくはどういった工程があるのでしょうか?

口から摂取した食餌や水は消化吸収され血中に取り込まれます。そのなかから不要になったものを排泄する手段のひとつが尿の生成です。腎臓では、電解質・ミネラルのバランスを調整したり、毒素を排泄したり、水分を再吸収して尿を濃くつくりあげたりしています。

慢性腎臓病は、なんらかの原因で腎臓の機能が落ちた状態です。つまり、この病気になると、体液バランスが崩れたり、毒素が溜まりやすくなったり、水分がどんどん身体の外に排泄されたりしてしまうのです。症状としては、脱水・多飲多尿・食欲不振・嘔吐が典型的です [1]。

慢性腎臓病は、ねこちゃんでとても多い病気でありながら、治すための方法は現在のところ確立されていません。しかし、いい状態を長くキープして、病気と付き合っていくために有効な方法はいくつかわかっています。点滴やお薬、そして適切な食餌です。

今回は、慢性腎臓病のねこちゃんに推奨される食餌はどういったものなのか、見ていきましょう。しかし、腎臓病の原因や持病によっては推奨される食餌内容が変わります。また、ねこちゃんは食にうるさい子が多く、われわれの思うようにいかないことも多々あります。実際の食餌内容は、かかりつけの獣医師さんとご相談のうえ決めていきましょう。

 

慢性腎臓病とごはんの関係

慢性腎臓病治療の目標は「できるだけいい状態をキープすること」であると述べましたが、これを細分化すると、

①適切に栄養をとる

②慢性腎臓病の進行を抑える

③体液のバランスを取る

④尿毒症(腎臓病が進んだときに生じる、身体に毒が回った状態)の症状を軽減する

にわけられます。

病気を治療するといえばお薬と思いがちですが、慢性腎臓病に関していえば、意外と食餌がポイントになります。食餌を工夫することで、上記の①から④までサポートすることが可能です。

 

食餌成分別の腎臓への影響

水分量

慢性腎臓病では尿を濃縮することができないため、身体の水分がどんどん体外に出てしまい、ねこちゃんの身体は脱水気味になります。それを補正するためにも②病気の進行を抑えるためにも、水分摂取量をしっかり確保する必要があります。慢性腎臓病のねこちゃんは自分でたくさん水を飲んでくれることも多いですが、往々にして足りないので飼い主様も飲水量を増やす工夫をしてみてください。水飲み場を増やしたり、ぬるま湯にしてみたり、食餌にウェットフードやふやかしたフードを取り入れたりするとよいですね。

タンパク質

飼い主様によっては、タンパク質が腎臓の負担になるとご存知な方もいると思います。しかし、実はこれには難しい点があります。確かに腎臓病が進んで尿毒症がはじまっている場合は、④その症状を軽減するためにタンパク制限が必要です。しかし、尿毒症症状が出る前のねこちゃんでタンパク制限がいるかはいまだ議論がわかれているのです。

ねこちゃんは原則肉食で、タンパク質の摂取はとても重要ですので、タンパク制限については かかりつけの獣医師さんとよく相談してください。

リン

ミネラルの一種であるリンも腎臓病を考える際に大切な栄養素です。リンは腎臓で調整され排泄されますので、慢性腎臓病のねこちゃんでは身体にたまってしまっていることがしばしばあります。そのため、リンが控えめな食餌が推奨されます(リンの含有量はタンパク質と相関することが多いので、どちらも控えめな食餌ということになります)。②腎臓病自体の進行を抑え、③体液バランスを整えることが期待されます。

ナトリウム

通常、腎臓はナトリウムを体外に排泄するはたらきをしていますが、腎臓病になるとこの機能が落ちて電解質バランスが崩れてしまいます。ナトリウムを控えた食餌にすることで、③体液バランスを整え、ときに②高血圧(腎臓病により引き起こされることがあります)の悪化を防ぐことができます。ねこちゃんは塩分が多いごはんを好むことも多くて悩ましいですが、腎臓にやさしくするならば塩分控えめを選びたいですね。

カリウム

腎臓病では、食欲不振によりカリウムの摂取量が少なくなりがちです。また、尿とともにカリウムが流れ出てしまうこともあり、低カリウム血症になることが多いです。このため、①必要な栄養素を摂取し、③体液バランスを整えるために、カリウムの多めな食餌が推奨されます。ただし、電解質の調整はとても繊細であり、病態によっては高カリウム血症になっていることもあるため、注意が必要です。

オメガ3脂肪酸

皮膚や関節に良いと近年脚光を浴びている成分ですが、慢性腎臓病にも効果があると考えられます。炎症を抑えたり、腎臓内の血圧上昇を抑えたりすることで、②慢性腎臓病の進行を抑える作用が期待されます。オメガ3脂肪酸がしっかり入っている食餌が良いですね。

ビタミンE・C

腎臓が障害を受ける際、酸化ストレスが関与していることがあります。酸化障害による②慢性腎臓病の進行を抑えるために、抗酸化作用のあるビタミンE・Cが多く含まれる食餌もよいといわれています。

英語のことわざに「You are what you eat(ひとは食によって決まる)」というものがありますが(ブリア=サバラン著・美味礼讃より)、生きものにとって食餌はとても重要です。栄養学はかなり奥が深く、ねこちゃんの好みや体調により必要な栄養は変わってきます。今回はその一部をご紹介させていただきましたので、参考にしていただければ幸いです。

 

参考文献:

獣医内科学 日本獣医内科学アカデミー監修

小動物の臨床栄養学第5版 岩崎利郎・辻本元監訳

執筆者

田中 由衣子 先生 (獣医師)

東京都出身。幼少期から動物が好きで、いろいろな生きものを追いかけて育つ。卒業後は腫瘍研究をしながら、小動物臨床に携わってきた。数年前から研修もはじめ、ねこちゃんとそのご家族に最適な治療を提供すべく、日々勉強に追われている。