結晶尿について

獣医師が監修しました
工藤 綾乃 先生

獣医師

結晶尿とは

通常尿の中に溶けているミネラルが溶けきれなくなって凝集し、尿の中に結晶として出ている状態を結晶尿といいます。結晶は肉眼では見ることはできず、顕微鏡でしか見えない大きさです。結晶尿はねこに何か問題があることを示している場合がある一方、医学的に特に問題のない場合もあります。

結晶が大きくなると、目に見える大きさの結石(大きいものでは数cm)となることもあり、尿路(腎臓で作られた尿が排泄されるまでの経路)のどこかに詰まってしまう可能性があります。この状態を尿路結石、特に膀胱に結石ができた状態を膀胱結石といいます。尿路結石では結石が尿管や尿道を防いでしまうリスクもあり、深刻な状態に陥ることがあります。

 

結晶の種類

尿に含まれる成分(マグネシウム、リン、カルシウムなど)のどれを主成分とするかで結晶の種類は分けられます。結晶にはいくつか種類がありますが、ねこでみられる最も一般的なものは以下の2種類です。

ストルバイト結晶

リン酸マグネシウムアンモニウム結晶とも言います。尿がアルカリ性に傾いたときにできやすい結晶です。

シュウ酸カルシウム結晶

尿が酸性に傾いたときにできやすい結晶です。

他にも、尿酸アンモニウム結晶、シスチン結晶、キサンチン結晶などの種類があります。

 

原因

尿の中に結晶ができやすい原因には何があるのでしょうか。水をあまり飲まず、排尿もあまりしないねこでは体内で尿が濃縮され、結晶の成分の濃度が高くなるため、成分が溶けきれなくなって結晶ができやすくなります。他にも、食べ物によって尿のpHがかたよっている状態でも結晶が析出しやすくなります。

ちなみに、尿検査をするときに尿を置いておくと、結晶が析出してくることもあります。この場合、ねこに医学的な問題はありません。

 

症状

結晶尿だけでは症状を示さないことが多いです。結晶はとても小さいので、尿路の中を刺激するリスクも極めて低いためです。しかし、尿路結石を伴っている場合は、結石による刺激や残尿感によって頻繁にトイレに行くようになる「頻尿」や、結石が膀胱や尿道などを傷つけてしまうことで、血が混じった尿が出る「血尿」などが症状として現れることがあります。

検査

尿検査

尿のpHや尿に含まれる結晶の種類を顕微鏡で調べたり、細菌感染の有無を検査したりします。

X線検査

大きな結石の有無を確認します。結石の種類や大きさによって、X線での見えやすさが変わります。

エコー検査

X線検査では見えないような小さな結石でも検出することができます。

 

治療

何も症状がない場合は、特に治療が必要でない場合もあります。ただし、尿路結石のリスクがあると獣医師が判断した場合や、尿路結石がある場合は予防・治療をする必要があります。

結晶や結石の種類や大きさによっては、結石のもととなる成分が少ない食餌(療法食)に変更することで予防・治療できることがあります。また、ストルバイト結石ができている場合は、薬で溶かすことが可能な場合もあります。残念ながらシュウ酸カルシウム結石を溶かす薬は今のところありません。結石が大きく、自然排出や薬での治療が期待できない場合は、手術で直接結石を取り除く方法がとられることもあります。

普段からできる尿路結石の予防として、ねこが飲む水の量を増やし、排尿の頻度を増やしてあげる工夫をすることが重要です。結晶が尿路の中で濃縮され、大きくなるのを防ぐことができます。そのために、常に新鮮な水が飲める環境とトイレの環境を整えてあげましょう。トイレが汚れていたり、ごはんを食べる場所と同じ場所にあったりすると、ねこが排泄するのを嫌がって我慢してしまう可能性があります。特にトイレはきれいに保ち、安心できる場所かつごはんを食べる場所とは別の場所にトイレを置いてあげるといったことに気を付けましょう。

また、肥満気味のねこや運動不足気味のねこは水を飲む量が少なくなりがちなので、キャットタワーと置いたり、定期的におもちゃで遊んであげたりして運動量を増やすようにしましょう。

参考文献:

1. August's Consultations in Feline Internal Medicine, Volume 7. A. Callens and J.W. Bartges. p.499-508

2. Cystinuria in Dogs and Cats: What Do We Know after Almost 200 Years? S. Kovaříková, et al. Animals (Basel). 2021.

3. Urinary Tract Infections: Treatment/Comparative Therapeutics, S.J. Olin and J.W. Bartges. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2015.

監修者

工藤 綾乃 先生 (獣医師)

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。