ねこの心筋症について
心筋症とは
心筋症は、心臓の筋肉(心筋)が弱まったり、分厚くなったり、硬くなったりした結果、心臓がうまく働けなくなる病気です。心臓の形が変化する点が特徴です。
健康な心臓は常に収縮して血液を全身に送り出し、全身から血液が戻ってきたときに拡張する、ということを繰り返しています。
しかし、例えば心筋が硬くなってしまった場合、血液が全身から戻ってきても心臓がうまく広がることができず、心臓内にかかる血圧が高くなり、結果として心臓が大きくなります(肥大化)。さらに心臓と肺も血管でつながっているので、心臓内の圧力が高くなると肺や胸腔(心臓や肺がある空間)にも影響が出てきてしまいます(肺に水がたまる肺水腫、胸腔に水がたまる胸水など)。
心筋症にはいくつかの種類がありますが、これらのうち、ねこでよく見られる心筋症について簡単に説明します。
肥大型心筋症(HCM)
ねこで最も多い心筋症で、飼いねこのうち約15%がHCMであるという報告があります(症状が出ない場合もよくあります)。メインクーンやラグドールなどの品種は、遺伝的にHCMになりやすいといわれています [3]。心臓の壁が分厚く、硬くなるのが特徴です。
拘束型心筋症(RCM)
心筋が硬くなるのが特徴です。HCMも心筋が硬くなりますが、HCMとは違い、心臓の壁は厚くなりません [4]。
拡張型心筋症(DCM)
ねこの心筋症のうち、5%以下とあまり多くありません。心筋が弱まり、心臓の血液が入る部屋が広がります。原因の一つとして、タウリンという栄養分の不足によって生じることがあります。現在の市販フードには十分量のタウリンが含まれていますが、家庭で手作りフードをあげている場合は注意が必要です [4]。
症状
心筋症の種類は上で述べたようにいくつかありますが、出てくる症状はいずれもよく似ています。
疲れやすい
心臓がうまく働けないので酸素が十分に全身に行きわたらない、また肺水腫などにより呼吸がしづらいことが原因で、疲れやすくなることがあります。
食欲の低下
呼吸がうまくできない場合、食欲が低下することがあります。
呼吸速迫、呼吸困難
肺や胸腔に水がたまることでうまく呼吸できず、頻呼吸になることがあります。重症の場合は呼吸困難に陥ることもあります。
後肢麻痺
心臓がうまく動けない状態が続くと、心臓内に血液が滞りがちになり、血栓ができやすい状態になります。この血栓が動脈の血流に乗り、体のどこかに詰まってしまうと麻痺がおこる可能性があります(血栓塞栓症)。特に後ろ足に血液を届ける血管に詰まることが多く、両方の後肢に麻痺が出ることが多いです [2]。また、血栓塞栓症は激痛を伴います。
他にも、体の循環が悪くなることで、低体温といった症状が出る場合もあります。一方、症状が出ず、他の目的で聴診やレントゲンを撮ったときに偶然心筋症が見つかることもあります。
ステージング
心筋症は、状態や症状によってステージA~Dに分類されています [1]。
A: 心筋症になる素因があるが、異常は認められない。
B: 心筋症に特徴的な変化(心臓の壁が厚くなる、拡大するなど)の変化は認められるが、臨床症状はない。ステージBはさらに、心臓の拡大が軽度で血栓塞栓症や心臓麻痺のリスクが低いB1、心臓の拡大が中~重度で血栓塞栓症や心臓麻痺のリスクが高いB2に分けられる。
C: 心筋症に特徴的な変化があり、心不全や血栓塞栓症、失神といった症状が認められる状態。治療によって状態が落ち着いている場合も含む。
D: Cに加え、治療に十分反応しない状態。
診断のために行う検査
身体検査:心・肺音の聴取
心筋症のねこの心音は、健康なねこでは聞こえない雑音が聞こえることがあります。しかし、心音が正常でも心筋症を除外できるわけではないので注意が必要です。また、肺や胸腔に水が溜まっていると、正常とは異なる音がします。こういった変化は聴診で見つけることができます。
血液検査
心臓の機能が弱っているときに分泌される物質などを測定することがあります。
X線検査
肺水腫や胸水の有無や、心臓の形や大きさを調べることができます。
胸部エコー検査
心臓の動きや血流を見ることができます。また、心臓の構造の変化や胸水の有無なども検査することができます。心筋症の診断には、心臓エコー検査がとても重要です。
治療
ステージAやB1の無症状のねこに対して、将来的に症状が出るのを予防する有効な方法は今のところありません。定期的に病院で検査を受け、心臓の拡張が進んでいないか、肺水腫や胸水などが出ていないかを確認することが大切です。家でも、心臓の拡張があるねこ(ステージB)に対しては、睡眠時の呼吸数を確認することも良いモニターになります。通常の呼吸数は1分あたり30回未満(睡眠時)ですが、呼吸数が増加したら重度の呼吸困難に陥る可能性があるので、その前に病院で診察してもらいましょう。
重度に心臓が大きくなっている場合(ステージB2以降)は、血栓予防のための薬の服用を始める必要があります。ステージCから、胸水などの体液貯留に対して薬物治療(利尿薬)が必要となります。呼吸速迫や呼吸困難となっているねこに対しては、薬物治療と合わせて、酸素濃度を高く保ったケージ入れ、ストレスをかけないようにすることが必要な場合もあります。その他、重度の胸水によって呼吸困難になっている場合は、胸腔穿刺(胸に細い針を刺す処置)で胸水を抜いてあげることもあります。
また、心筋症のねこには、高ナトリウムの食品やおやつをできるだけあげないようにすることも重要です。
血栓塞栓症により後肢麻痺となってしまった猫に対しては、残念ながら有効な治療法はありません。血栓が自然と溶けて後肢が動くようになる場合もありますが、痛みが続く場合は痛みを和らげるケアをしてあげることが最善の方法です。
ちなみに、タウリンの不足によって生じた拡張型心筋症の場合、タウリンを十分に含んだフードに変更してあげることで治療可能な場合があります [4]。
注意点
ステージB1など症状が無いねこでも、多くの場合心筋症は少しずつ進行してしまいます。重度の肺水腫や胸水となってしまったり、血栓塞栓症となってしまったりしたねこの予後は残念ながら良くありません。
心筋症のねこの場合、心臓に負荷ができるだけかからないようにストレスを減らすなど、出来る限りねこが幸せに過ごせる方法を考えておきたいですね。
2. The Feline Cardiomyopathies: 1. General concepts. M.D. Kittleson and E. Côté. J Feline Med Surg. 2021.
3. The Feline Cardiomyopathies: 2. Hypertrophic cardiomyopathy. M.D. Kittleson and E. Côté. J Feline Med Surg. 2021.
4. The Feline Cardiomyopathies: 3. Cardiomyopathies other than HCM. M.D. Kittleson and E. Côté. J Feline Med Surg. 2021.
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