歩き方の異常について

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中村 暢宏 先生 獣医師・獣医学博士・博士研究員(酪農学園大学・早稲田大学・国立感染症研究所)
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歩き方がおかしいとき

ねこを見ていて、「歩き方がいつもと比べておかしい」と思ったことはありませんか?足を地面につけないでケンケンしている、片方の足をかばうように歩幅が狭くなっている、あるいは力が入らず足を引きづっている、といった歩き方をすることがあります。これら歩き方の異常は専門用語で「跛行 (はこう)」と呼ばれ、外傷や骨・関節の異常、筋肉の異常、神経の異常など様々な原因によって引き起こされます。また、足とは直接関係ないような心臓の病気や代謝性疾患でも跛行が見られる場合があります。

 

足を地面につけない、歩き方がぎこちない

外傷や骨・関節に異常がある場合には、その足に何らかの痛みが生じ、足を地面につけずに歩く、あるいはある足をつける時だけ歩幅が狭くなるといった歩き方が見られやすいです。また、関節に異常がある際には曲げると痛みを感じるため、関節を曲げないようにぎこちない歩き方となることが多いです。

原因

・肉球など足裏の傷(爪が伸びすぎて肉球に刺さる、異物が刺さっているなど)

・骨折

・関節炎(免疫性、感染性)

・脱臼(膝蓋骨、股関節)

・骨や関節にできる腫瘍(骨肉腫、組織球性肉腫、軟骨肉腫など)

・骨軟骨異形成症(スコティッシュフォールドなどの耳折れを持つ品種で関節が固まる病気)

 

足を引きずっているとき

一方、足をだらんとして引きずるような歩き方をする際には、足に痛みや感覚がない場合が多く、筋肉や神経系の異常、さらには心臓の病気など、一見歩き方の異常とは関係ないことが原因となっていることがあります。

原因

重症筋無力症:免疫異常による病気で、筋肉を動かすための神経伝達が上手くいかず、全身に力が入らなくなる

多発性筋炎:免疫異常による病気で、筋肉が直接炎症によるダメージを受け、全身に力が入らなくなる

脊髄神経の障害 による麻痺:椎間板ヘルニア、脊髄損傷など。障害された部位より尾側の神経に麻痺が起きる。

動脈血栓塞栓症:肥大型心筋症と呼ばれる心臓病に伴うことが多い。心臓でできた血栓が動脈に詰まり、主に後ろ足が麻痺する。例外的に、激しい痛みを伴う

末梢神経障害:糖尿病に併発しておきやすい症状。かかとをつけて歩くようになる

 

ちなみに、私たち人間はかかとをついて歩いていますが、ねこは通常つま先立ちをして歩いている状態です。しかし、糖尿病による末梢神経障害が起こると、後ろ足をかかとまで完全にぺたんとつけて歩くようになることがあります。

その他全身症状に伴う運動異常

その他にも様々な歩き方や行動の異常がみられることがあり、歩き方の異常を含め全身症状を伴う病気があります。

症状と原因

けいれん発作

手足や背筋が硬直、または手足をバタバタさせて意識を失うことが多い。脳神経に異常がある他、低カルシウム血症や低血糖、またはチョコレート摂取などによる様々な中毒症状の時にみられる。

旋回運動

同じところをぐるぐると回る。平衡感覚をつかさどる神経の異常が原因で、脳神経の異常や中耳炎・内耳炎、甲状腺機能低下症などで起こる。旋回運動の他にも斜頸や眼振がみられることがある。

ぐったりしていて立てない

ショック状態である可能性があり、緊急性が高い。大量出血や熱中症、ワクチン後のアナフィラキシー、敗血症、中毒など

 

診断のために行なう検査

・身体検査 :傷や痛みの有無、脱臼や麻痺の確認

・X線検査 :骨折や脱臼の診断

・血液検査 :糖尿病や筋肉の損傷の評価、その他全身症状の把握などを

・エコー検査 :心臓病の診断や血栓の確認

・MRI検査 :脊髄神経の損傷を評価

また、病院では緊張してしまい跛行が見られなくなることがあるため、自宅での様子を録画してから受診すると適切な診断のヒントとなることがあります。

歩き方の異常は見つけやすい症状の1つです。しかしながら、普段注意してみていないといつもとの違いに気付けないこともあるため、元気な時の歩き方を動画で撮影しておくと、すぐに見比べることができて良いですね。また、心臓病や糖尿病など、持病を持っている場合にはより注意してみてあげましょう。 

参考文献
1. 猫の治療ガイド2020, 辻本元、小山秀一、大草潔、中村篤史、2020年
この記事を監修した人
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中村 暢宏 先生 獣医師・獣医学博士・博士研究員(酪農学園大学・早稲田大学・国立感染症研究所)

北海道出身。北海道の酪農学園大学を卒業後、都内動物病院にて臨床獣医師として勤務。その後、抗生剤の効かない薬剤耐性菌に対する治療法の研究を行うため、酪農学園大学大学院博士課程に進学。2022年3月に博士号を取得後、酪農学園大学・早稲田大学・国立感染症研究所にてポスドクとして研究を行いながら臨床にも携わっている。専門・得意分野は感染症、消化器、免疫疾患など。無類の猫好き。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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