ねこの肥満細胞腫について
肥満細胞腫とは
肥満細胞という細胞が由来の悪性腫瘍で、腫瘍の中では、いぬねこ共に比較的多く見られます。いぬでは主に皮膚に発生しますが、ねこでは皮膚に発生する皮膚型と脾臓や消化管に発生する内臓型の2種類が知られています [1]。
皮膚型肥満細胞腫
ねこの皮膚腫瘍では2番目に発生が多く、頭頸部によくみられます。悪性度が低く経過が穏やかな傾向がありますが、中には内臓型肥満細胞腫の転移である可能性もあります。見た目や大きさ、硬さは様々です。
内臓型肥満細胞腫
脾臓に発生する場合や小腸などの消化管に発生する場合があります。どの場合も肝臓やリンパ節などに転移する恐れが高く、特に消化管に発生する場合は進行が早いため注意が必要です。
症状
肥満細胞はアレルギー反応の際に働く細胞で、ヒスタミンやヘパリンを含んでいます。肥満細胞腫では、腫瘍に刺激が加わると、これらの物質が放出されて消化管障害や血管障害が引き起こされます。その結果、胃腸の潰瘍や血圧低下、嘔吐などの全身症状を引き起こす恐れがあります。
また、皮膚型肥満細胞腫では、腫瘤周囲にむくみや蕁麻疹のような内出血を生じることがあります。ねこが痛みや痒みを感じてしまうこともあります。
内臓型肥満細胞腫では、脾臓が腫大して消化管を圧迫したり、腫瘍が消化管に発生したりして、蠕動運動機能を低下させるため、食欲不振や嘔吐などの消化器症状を伴うことがあります。
その他、肥満細胞腫に特徴的な症状ではないですが、病気が進行していると元気の低下や体重減少、毛艶の低下などの全身状態の低下が見られるでしょう。
診断のために行う検査
身体検査で皮膚腫瘤または内臓腫瘤を認めた際に、肥満細胞腫の診断をするためには針生検による細胞診を実施します。
・細胞診
採血で使用するような細い針を腫瘤に刺して、内部の細胞を採取し、顕微鏡で観察します。その際に、腫瘍細胞として肥満細胞が多数観察されれば、肥満細胞腫と診断します。中には、腫瘍細胞が肥満細胞の特徴を示さない場合もあるため、細胞診で診断が難しい場合は腫瘤全体あるいは一部の病理組織検査をする必要があるでしょう。
・その他の検査
脾臓の肥満細胞腫では、脾臓がどの程度腫大しているかを確認するためにX線検査やエコー検査が有用です。脾臓が腫大していると、針を刺すことで多量の出血をしてしまう恐れがあるため、細胞診を実施するかどうか慎重に判断する必要があります。細胞診のリスクが高く難しい場合は、血液を観察して、腫瘍細胞を疑う肥満細胞の有無を確認する場合もあります。
最終的にはCT検査を通して、全身の転移の有無を確認したり、手術が適用であれば、摘出した腫瘤を病理組織検査することで確定診断に至ります。
治療
ねこの肥満細胞腫の治療は、外科手術が第一に選択されます [1]。
皮膚型の場合
再発を防ぐために、腫瘤から離れた部分まで広範囲に切除することが推奨されます。ただし、頭頸部に発生すると、十分な範囲の切除が難しい場合もあるでしょう。その場合も、腫瘤が摘出できれば経過は良好なことが多いと考えられています。
内臓型の場合
脾臓の肥満細胞腫の場合は、脾臓を摘出する手術が推奨されます。ただし、血液中に肥満細胞が存在し、リンパ節や肝臓に転移を認める場合、完全に腫瘍を取り除くことはできません。その場合は、あくまで症状を抑え進行を遅らせるための緩和治療として、手術自体による侵襲とのリスクベネフィットを考慮して判断する必要があるでしょう。
・化学療法
以下の理由で、化学療法が行われる場合もあります。
・腫瘍が切除できない。
・全身転移や多発している。
・再発している。
・皮膚の肥満細胞腫だが悪性度が高い。
化学療法では抗がん剤や分子標的薬、ステロイドなどの薬剤を使用します。ただし、いぬではこうした薬剤の標準的な使用方法・治療スケジュールが定められていますが、ねこではそのような研究報告が少ないです。そのため、どれだけの治療効果が期待できるか分からないことを理解した上で、獣医師と方針を決めていきましょう。
・その他の支持療法
ヒスタミンによる消化管の潰瘍や血圧低下を防止するために、抗ヒスタミン薬やヒスタミン受容体拮抗薬、胃腸粘膜保護薬を内服継続することが推奨されます。
肥満細胞腫は聞き馴染みのない病気で、悪性腫瘍と聞くと大変心配になるでしょう。外科手術が適用であれば、治療により回復する場合が多い病気ですので、獣医師の説明をしっかりと受けた上で、ねこの肥満細胞腫の状態を理解することが大切です。
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