胸水貯留

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長尾 乙磨 先生 獣医師
目次

胸水とは

ねこの胸の中には心臓や肺がありますが、それらは胸膜という薄い膜で覆われています。心臓や肺の運動に伴う摩擦を軽減するために、胸膜からは少量の胸膜液が分泌されています。何らかの原因で胸膜液などの液体が胸の中に多量に溜まってしまった状態を胸水と言います。溜まってしまった胸水によって、肺が広がりづらくなり、呼吸が苦しくなってしまいます [1]。

症状

胸水の貯留量や溜まっていく速度によって症状は異なり、軽度の貯留の場合は症状が現れないこともあります。ねこの様子をこまめにチェックしてあげることで、初期症状に気づいて早期に治療を開始することができます。

では、胸水が溜まっている時にはどのような症状が見られるのでしょうか [1, 2]。

疲れやすくなる

 初期症状として気づきやすい症状です。胸水が貯留することにより、少しずつ呼吸がしづらくなってきたことのサインです。いつも家の中をよく歩き回っていたねこが、すぐに休むようになったり、おもちゃで遊びたがらなくなってしまった場合は要注意です。

呼吸促迫

 胸水により肺の拡張が制限され、呼吸が苦しくなるため呼吸数が増加します。多くの酸素を取り込もうと、努力して息を吸うような様子が見られます。落ち着いている時に呼吸数が1分間あたり40回を超えると、呼吸が早いと判断されます。胸を大きく広げようと腹式呼吸が見られることもあるので、お腹の動きにも注意が必要です。

チアノーゼ

酸素がうまく取り込めなくなると、舌の色が紫っぽくなるチアノーゼが見られるようになります。チアノーゼは重度の低酸素状態が生じているサインです。

開口呼吸(口を開けて呼吸)

症状がさらに進行すると、多くの酸素を取り込むために口を開けて呼吸をするようになります。開口呼吸は胸水が多く貯留し特に呼吸が苦しい場合に生じる症状のため、開口呼吸を見つけたらすぐに動物病院へ連れていきましょう。

原因 

心不全

胸の中では心臓、肺の動きによる摩擦を減らすために、胸膜から胸膜液が分泌されていますが、心臓の機能が低下して循環が悪くなることにより、胸膜液の分泌が過剰になってしまったり、胸膜液の吸収が低下してしまい、胸水が溜まります [1]。

胸腔内腫瘍

胸腔内にできてしまった腫瘍が胸膜に転移・浸潤してしまった場合や、胸腔内の腫瘍が大きな血管を圧迫している場合に胸水が溜まってしまうことがあります。ねこの胸腔内の腫瘍ではリンパ腫や肺癌、胸腺腫などが考えられます。

感染(細菌、ウイルス)

細菌感染が胸腔内で起きてしまった場合は膿混じりの胸水が溜まってしまうことがあります。外傷により感染が生じることが多いので、同居のねこさんがいらっしゃる家庭や、外を出歩くことが多いねこさんは注意が必要です。

胸水が溜まってしまうウイルス性疾患としては猫伝染性腹膜炎(FIP)が挙げられます。FIPウイルスの感染により、特徴的なビール色のトロトロした胸水が溜まってしまいます。

乳び胸(にゅうびきょう)

胸腔には心臓、肺などの臓器や、血管だけでなく、リンパ管という管が通っています。リンパ管は脂質の豊富なリンパ液を運搬する管ですが、腫瘍などによる圧迫によってリンパ液が胸腔に漏れ出て溜まってしまうことがあります。このような脂質の豊富なリンパ液が胸水として溜まってしまうことを乳び胸と言いますが、実はねこでは原因がわからない特発性乳び胸の発生が一番多いです。

 

診断のために行う検査

X線検査

胸部のX線検査により、肺や心臓の様子、胸水の有無を確認します。胸水がどれくらい溜まっているのか確認することができますが、胸水が大量に溜まっている場合は胸水に隠れてしまって心臓の評価ができない場合があります。

エコー検査

エコー検査では臓器の断面や形などの臓器の詳細な評価や、胸水の検出を行います。エコー画像で臓器の位置を確認しながら、細い針を刺して胸水を抜いて胸水の検査に進みます。

胸水検査

エコー検査で得られた胸水の評価を行います。胸水の色や、胸水に含まれる細胞数、細胞の種類、細菌の有無などから胸水の出ている原因を特定するヒントを得られます。

 

治療 

胸水抜去

胸水が貯留していることにより、肺の拡張が制限され呼吸が苦しくなっていることが多いので、まずは検査の目的だけでなく治療として胸水の抜去を行います。ただし胸水の抜去は一時的な対処に過ぎず、胸水の原因となる疾患の治療を行わなければ、再び胸水が溜まってきてしまいます [1, 2]。

原因に応じた治療

心不全:

心臓の動きを助けるような強心薬や、循環血流量を減らす利尿薬などを用いて心臓への負担を下げる治療を行います。

腫瘍:

腫瘍の種類によって治療法は異なりますが、外科的な摘出や抗がん剤による治療を行います。

乳び胸:

リンパ管の流れを良くすることを目的に外科手術を行います。治療により胸水の貯留がピタリと止まるねこさんもいれば、繰り返してしまうねこさんもいます [1, 2]。

 

注意点

ねこは呼吸がよっぽど苦しくなるまで症状が出づらい

ねこはいぬとは異なり、基本的には鼻呼吸をして生きています。口での呼吸をするいぬでは呼吸が荒いことはとてもわかりやすいですが、鼻で呼吸をするねこでは呼吸が荒いことが気づかれにくいです。特にねこが口を開けて呼吸している時は本当に苦しい時なので、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。

元気食欲の低下、体重増加など小さなサインにも注意

胸水が溜まり始めた時、呼吸が荒くなったり呼吸の回数が増えてくる前に、活動性が下がったり食欲が低下したりと一般的な体調不良を起こすことが多いです。また胸水が溜まってくることによって、少しずつ胸水の分だけ体重が増えていきます。こういった小さいなサインから動物病院で胸水が見つかることもあります。

 

参考文献
1. 獣医内科学 小動物編 日本内科学アカデミー編 文英堂出版
2. SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE. 5th edition. interzoo
この記事を監修した人
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長尾 乙磨 先生 獣医師

山形県出身。東京大学を卒業後、同大学博士課程に在籍中。大学附属動物医療センターで診療活動を行っており、専門は消化器内科。学生時代からアメリカンフットボールをやっていることもあり、いぬねこの筋肉や脂肪、栄養学を専門として研究に奮闘中。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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