ねこの血栓塞栓症
血栓塞栓症とは
血栓塞栓症とは何らかの原因で血管の中に血栓ができ、その血栓が血管に詰まって血流を遮断することで起きる病気です。血栓塞栓症の恐ろしいところは、血栓はどの血管でも生じることから、その血栓により遮断される血管や臓器によっては様々な障害が引き起こされる可能性があり、最悪の場合には死亡してしまうこともある病気だということです。人では血栓塞栓症として脳梗塞、心筋梗塞などがよく知られているかと思います。ねこでは、後ろ足にむかう動脈が遮断されてしまう大動脈血栓塞栓症が代表的な血栓塞栓症なため、今回はその病気についてのお話をしていきたいと思います。
血栓ができてしまう原因には心臓病や腫瘍などがありますが、ねこの場合はとくに心臓病が原因となることが多いです。心臓病の中でも多いのは肥大型心筋症や拘束型心筋症と呼ばれる心筋症です。これらの心筋症により、左心房が大きくなって血液の流れが停滞することや、血管が傷つくことで血栓ができやすくなります。この時左心房で生じた血栓が大動脈に流れ出し、血管が左右の後ろ足に分岐する細くなるところで詰まってしまうのです。後ろ足ほど多くはないですが、前足に分岐する血管に詰まることもあります。
症状
突然の激痛と麻痺です。ねこが急に悲鳴を上げ、少し触っただけで痛がって怒り、足を引きずるような場合には血栓塞栓を強く疑います。
こうした症状が出るときは、先にも述べたようにすでに心臓病を患っていることが多く、心不全から肺に水がたまったり(肺水腫)、胸の中に水がたまってしまって(胸水貯留)呼吸が苦しい状態になっていることもあります。
診断のために行う検査
身体検査
麻痺の起きているあしを触り、血流があるかどうかを評価します。血流が途絶えていると足は冷たくなり、肉球が青白くみえます。
心臓病による雑音が聞こえることもあります。体温が低下している場合、予後が悪い可能性も報告されています。
エコー検査
心臓病の評価をするためのもっとも重要な検査です。心臓の動きや血流の評価をすることで心臓病の有無を調べます。大動脈やあしに向かう血管やそこに詰まっている血栓を確認できることもあります。
血液検査
血栓塞栓症では全身の状態が悪いことが多く、状態の把握のために血液検査が必要になります。体全体と塞栓をおこした脚とで血液検査の結果が違うときには、その脚は虚血により重度の障害がでている可能性があります。
X線検査
心臓の大きさの評価、肺水腫の評価などのために必要な検査です。
多くの場合ねこは激痛のため触らせてはくれず、鎮痛薬や鎮静剤を使ってから検査を行う必要があります。
治療
まずはねこの状態を少しでも安定させるためにしっかりとした鎮痛を行う必要があります。発症から大体6~8時間以内で、そこまで状態が悪化していないようであれば血栓を溶かす薬が適応になる可能性があります。
実施する病院は限られますが、手術による血栓の摘出を実施する場合もあります。血栓がなくなり、血流が再開すれば元のように歩けるようになることもあります。しかし、虚血したあしの中では組織障害の結果さまざまな老廃物が溜まっていくため、血流が再開しそれらが一気に全身を巡った結果、最悪の場合死亡してしまうこともあります。また、時間はかかりますが血栓自体は自然に溶けるのに任せて、これ以上血栓ができないように抗血栓薬の注射や飲み薬を投与する治療法もあります。
治療法をいくつか述べましたが、この病気の予後は非常に悪いです。多くの場合は発症から数日で亡くなってしまうか、急性期を乗り越えても数か月で亡くなってしまいます。そのため、この病気は起きたときの治療より、発症リスクを少しでも下げることが重要になります。
ねこは心臓病があっても心雑音がなく、身体検査だけでは見つけられる可能性が低いです。たとえ見かけ上健康であっても、健康診断で心臓の超音波検査をして、血栓症のリスクがあれば予防的に抗血栓薬をはじめることがこの病気の予防になる可能性があります。ぜひ、健康診断を受けてみてください [1]。
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