骨折について

獣医師が監修しました
工藤 綾乃 先生

獣医師

猫の骨折とは

身軽でしなやかで、高いところにもひょいと上り下りできる運動能力の高いねこでも、思わぬところで落下してしまい、けがをしてしまうことがあります。外によく行くようなねこでは、交通事故や高所からの落下などが原因で骨折する場合がありますが、屋内であっても階段や高い棚などから落下したり、来訪者に驚いて窓から飛び出して落下してしまったり、低い机からの落下でも着地の仕方が悪かったりすることで骨折してしまうことがありますので注意が必要です。また、カルシウムやリンといったミネラル異常の起こる病気や腫瘍などで骨が弱る病気を持っているねこでは、健康なねこでは骨折しないような場面でも折れてしてしまうことがあります。

骨折にもいくつか分類があり、完全にぽっきりと折れる場合のみでなく、ヒビが入ってしまうことや、骨の一部が欠けるようなものも骨折にあたります。また、成長期の子猫の場合は骨が伸びる成長板というポイントがあり、そこがダメージを受けてしまうとその後の骨の成長に影響を与えてしまう可能性があります。骨折はどんな骨でも起こり得ますが、落下や事故が原因となることが多いため、四肢や骨盤、肋骨などが骨折が起きやすい骨折となります。

症状

四肢の骨の骨折のときには、足をあげて体重をかけない様に歩く様子や骨折部位が腫れる様子が見られます。交通事故の場合には骨にかなりの衝撃が加わることになるので、折れた骨が皮膚から飛び出すようなこともあります。見かけ上の明らかな異常がなかったとしても、普段は嫌がらないのに触るのを嫌がって咬んできたり、痛みにより排便や排尿の姿勢が取れなかったりすることもあります。

一方で、ヒビや少し欠けるだけの骨折では症状がはっきりしないこともあります。また、我慢強いねこや痛みを隠すのが上手なねこでは症状を飼い主に見せないように振舞うこともあります。

 

原因

骨折の多くは落下によるものです。ほかにも転倒や衝突、交通事故なども原因になります。家の中では、ドアにうっかり挟めてしまったりといった状況にも注意が必要です。

骨が弱くなるような病気のねこでは、大きな衝撃がなくとも折れてしまうことがあります。

 

診断のための検査

X線検査

骨折の診断に欠かせないのが骨を見るのに優れたX線検査です。1本の骨が単純に2つに折れるだけでなく、斜め折れていたりや捻じれるように折れていたり、砕けてしまってたり、骨の位置が大きくずれてしまっていたりする場合もあります。そういった骨の様子を正確に把握し治療にあたるために様々な角度で複数回の撮影をおこなう必要があります。

血液検査、エコー検査など

交通事故などの場合、そのダメージが骨だけでなく内臓にも影響していることも多いためX線検査だけでなく血液検査、エコー検査などで全身の状態を把握する必要があります。

 

治療

骨折の治療は基本的に手術が必要となります。ねじやワイヤー、プレートで骨を固定します。ギプスのようなもので外から固定できる場合もありますが、ねこの場合嫌がって自分で外してしまうことが多く、不十分な治療になってしまうことがあります。また、骨折の部位や骨の状況、ねこの年齢、などによって適切な固定方法が変わります。

固定方法としてたとえば、骨の真ん中にワイヤーを入れて骨折片を合わせたり、欠けた骨をねじで止めたり、プレートをあてて補強するなどがあります。場合によってはいくつかの方法を組み合わせることもあります。

十分な固定ができていても、骨が癒合するのには時間がかかります。最低でも1か月はかかり、その間皮膚の傷の洗浄で包帯の交換や骨の癒合のチェックのため定期的に通院が必要です。また、無事に骨が固定され、治った後の処置としては固定に使ったものを抜去することもあれば、そのまま残すこともあります。そのまま残す場合には、あらかじめ体に影響しない材質のものを使用します。屋外で起きた事故では傷口が汚れてしまっている場合もあるため感染症にも十分配慮する必要があります。ですから十分な消毒と抗生剤による治療が欠かせません。

 

監修者

工藤 綾乃 先生 (獣医師)

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。