甲状腺機能亢進症について

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工藤 綾乃 先生 獣医師
目次

甲状腺機能亢進症とは

甲状腺機能亢進症とは、その名の通り甲状腺の機能が正常よりも亢進してしまう病気です。では、そもそも甲状腺とはどのような臓器なのでしょうか。 甲状腺は気管の脇にあり、甲状腺ホルモンを作り出します。

甲状腺ホルモンには、新陳代謝を促進したり(エネルギーを作り出す)、交感神経を刺激したり(興奮状態になることなどに影響する)、成長を促したりするはたらきがあります。

甲状腺機能亢進症は、高齢のねこ(10歳以上)でよく見られると言われており [1]、甲状腺腺腫(良性の腫瘍)によって甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで起こる場合が約7割と多い一方で、約2割のねこでは腺癌(悪性の腫瘍)が原因であるという報告があります。甲状腺機能亢進症を引き起こす原因はまだはっきりとはわかっていません。しかし、推測の段階ですが、フードに含まれるビスフェノールAやフタル酸、大豆イソフラボン、その他の防炎加工剤として使われるPBDEなどの環境汚染物質など、様々な物質が原因である可能性があるとされています [1]。

 

症状

甲状腺機能亢進症のねこでは、甲状腺ホルモンのはたらきに関連した様々な症状が出てきます。

多飲多尿

水を飲む量、尿の量が増える

異常な興奮

怒りやすくなったり、目がランランと輝くようになる

食べているのに痩せる

食欲は増す一方、体重が減少する

嘔吐、下痢

毛づやの悪化

など、特徴的な症状が多く認められます。

また、次のような併発症も見られることがあります [1]。

高血圧

甲状腺ホルモンは血圧をあげるはたらきがあるので、甲状腺ホルモンが過剰な状態であると高血圧となってしまう可能性があります。

慢性腎不全

慢性腎不全は高齢のねこに多く見られる病気の一つですが、甲状腺機能亢進症と併発する場合もあります。過剰な甲状腺ホルモンによって引き起こされた高血圧が腎臓にも影響し、それによって腎臓に負荷がかかり続けることが原因です。それとは別に、もともと腎不全であり、過剰な甲状腺ホルモンによって腎臓の血流と血液のろ過量を何とか保てていたねこが、甲状腺機能亢進症の治療をすることによって腎臓の機能が保てなくなり、腎不全が表面化してしまう例も報告されています。

その他、心雑音や頻脈などを含む心筋障害を認めることもあります。

 

検査

甲状腺ホルモン検査

血中の甲状腺ホルモンの値を確認します。甲状腺機能亢進症の場合には、ホルモン値が基準値よりも高くなります。

血液検査

赤血球や白血球、肝酵素などの値に異常がないか、他の病気の可能性はないかなども検査します。

頸部エコー検査

甲状腺が大きくなっていないか、大きくなっているとすれば両方か、片方かなどを調べます。

甲状腺が大きくなっていれば、首のあたりを触る触診によって確認できることもあります。自宅でも、喉のあたりにしこりがないかたまに触ってあげるようにしましょう。甲状腺の触診については、こちらの記事でくわしく説明していますのでぜひご参考ください。

 

治療

ねこの年齢や状態、他の病気(【症状】で述べた腎不全など)の有無などを踏まえて、適切な治療法を選択します。

抗甲状腺薬

甲状腺ホルモンが作られるのを阻害する薬で、症状を抑えることができます。ただし、完全に甲状腺機能亢進症を治す治療(根治治療)ではありませんので、薬を飲むのをやめると再発してしまいます。

甲状腺摘出

手術で甲状腺を取り除く治療法です。症状がひどい場合は、まず抗甲状腺薬である程度症状を抑えてから手術に進む場合もあります。

食事療法

ヨウ素は甲状腺ホルモンの原材料であるため、ヨウ素の含有量を抑えたごはんによって症状を抑えることができる場合があります。

ちなみに、海外では放射性ヨード(ヨウ素)治療という治療法がありますが、現在日本ではこの治療をおこなうことは認められていません。適切な治療によって上手に付き合うことができる病気ですので、気になる症状がでている場合には獣医師に相談してみましょう。

参考文献
1. 2016 AAFP Guidelines for the Management of Feline Hyperthyroidism. 2016
2. Diagnosis and management of feline hyperthyroidism: current perspectives. H.H. Vaske, et al., Vet Med (Auckl). 2014
3. Veterinary Oncology. inter zoo. vol.2 No.4. 2015. P.17
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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