甲状腺の触診の仕方

獣医師が監修しました
工藤 綾乃 先生

獣医師

甲状腺とは

甲状腺は気管の両脇に1つずつある、甲状腺ホルモンを作り出す臓器です。

甲状腺ホルモンは代謝機能をはじめ、様々な体の機能に影響を及ぼします。

・体温の調節

・脂質や炭水化物の代謝(エネルギーを作り出す)

・神経系の機能調節

・心臓のはたらきの調節

・体の成長と脳の発達 など

甲状腺に関連する病気として、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症があります。それぞれ、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される、またはその逆で正常よりも甲状腺ホルモンの量が少なくなる病気です。甲状腺ホルモンが分泌される量が正常値から大きくずれてしまうと、上で述べたような体の機能がうまく調節できなくなってしまいます。

 

ねこに多い甲状腺機能亢進症

ねこでは甲状腺機能亢進症になるリスクが高いといわれています。特に高齢のねこで発症しやすく、北米では10歳以上のねこの10%以上で甲状腺の機能亢進が認められるという報告があります [4]。

主な症状は、水を飲む量や尿の量が異常に増える(多飲多尿)、異常な興奮、食べているのに痩せる、嘔吐や下痢といったことが挙げられます。高血圧や慢性腎不全などを併発することもあります。詳細は以下のリンクを参照にしてください。

甲状腺機能亢進症について

 

ねこの甲状腺を触ってみる

甲状腺の異常をチェックする比較的簡単な方法として、実際にねこの甲状腺を触ってみる、という方法があります。健康なねこの甲状腺は小さく、首の周りの組織に埋もれているので通常触ることできません。しかし、甲状腺機能亢進症のねこでは甲状腺が通常より大きくなっていることが多いため、触れる場合があります(触れない場合も多々あります)。

ねこがリラックスしているときに首をなで、首のあたりにしこりがないかチェックしてみましょう。甲状腺は首の両脇に一つずつあるので、片方だけ触れるか、両方とも触れるかも確認してみましょう。

 

ただし、強く触りすぎると甲状腺が傷つき、甲状腺クリーゼ(甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態、サイロイドストームとも言う)を引き起こすリスクもあります。甲状腺機能亢進症の段階では何とか体のバランスを維持している状態であるのに対して、甲状腺クリーゼになると過剰な甲状腺ホルモンの影響に体の生命維持機能が対応しきれず、命に関わることもあります。

 

しこりが見つかったら?

甲状腺を触るのは獣医師でも難しい場合が多々あります。もし甲状腺らしきものに触ることができ、また甲状腺機能亢進症の症状がみられる場合は、病院を受診して詳しい検査(血液検査、エコー検査など)を受けましょう。

甲状腺機能亢進症は、適切な治療をうけることで上手に付き合っていくことのできる病気です。日ごろからねことスキンシップをとり、何か変わったことがないか気にかけてあげましょう。 

 

参考文献:

1. 2016 AAFP Guidelines for the Management of Feline Hyperthyroidism. 2016.

2. Diagnosis and management of feline hyperthyroidism: current perspectives. H.H. Vaske, et al., Vet Med (Auckl). 2014.

3. Epidemiology of thyroid diseases of dogs and cats. J.M. Scarlett. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1994.

4. Hyperthyroidism in cats: what's causing this epidemic of thyroid disease and can we prevent it? M. Peterson. J Feline Med Surg. 2012.

5. Thyroid Storm. B. Pokhrel, et al. StatPearls [Internet]. 2021.

6. Within- and between-examiner agreement for two thyroid palpation techniques in healthy and hyperthyroid cats. D. Paepe, et al. J Feline Med Surg. 2008.

監修者

工藤 綾乃 先生 (獣医師)

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。