多飲と多尿で気づくねこの病気

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吉本 翔 先生 獣医師・獣医学博士・博士研究員(麻布大学・ペンシルバニア大学)
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多飲多尿とは?

水を飲む量が異常に多いことを多飲と呼び、尿の量が異常に多いことを多尿と言います [1]。この2つの症状は関連して生じることが多いので、病院では「多飲多尿はありますか?」とまとめて聞かれることもあります。ねこでは多くの場合、過剰量の尿が出てしまい、出た分の水分を補うために飲むという反応により、多飲多尿が起こります。多飲多尿は様々な病気で生じることから、隠れた病気に気づく大事な手がかりとなります。

 

 

多飲多尿の原因

多飲多尿の主な原因には、どのようなものがあるのでしょうか。代表的な病気をご紹介します。

慢性腎臓病(CKD)

高齢のねこで多い、腎臓の病気。健康な腎臓では、血液が腎臓で濾過(ろか)されたあと、濾過された水分のうち必要な水分を再び体内に吸収し(濃縮)、再吸収されなかった水分が尿として排泄される。腎臓の機能が落ちると尿の濃縮がうまくできず、薄い尿がたくさん出るようになる。慢性腎臓病のねこでは、多飲多尿の他にも食欲不振、体重減少、嘔吐などの症状を伴うこともある。

糖尿病

膵臓の病気。血糖値を下げるインスリンがうまく働かないことで、血中の糖分が多くなり、尿中に過剰な糖が排出されるようになる。この尿中の糖濃度を薄めるために、尿がたくさん出る(多尿)。高齢、雄ねこ、肥満体型などは糖尿病になる。

甲状腺機能亢進症

喉にある甲状腺の機能が活発になることで生じる病気。高齢のねこで多い。甲状腺ホルモンの分泌量が増えることで、代謝が活性化され、腎臓に流れる血液量が増えることで多尿となる。また、代謝の活性化により、興奮・怒りやすくなる、食餌をよく食べているのに体重が減る、などの症状が生じることがある。慢性腎不全を併発することも多い。

これらの病気以外にも、腫瘍(リンパ腫、胸腺腫など)、尿崩症や子宮蓄膿症などの病気も多飲多尿を引き起こすことがあります。また、一部のお薬(利尿剤やステロイド剤など)の内服でも多飲多尿が生じます。

 

多飲多尿の気づき方

どれくらいの量が多飲・多尿にあたるのかは、正常な状態を知らなければ判断することができません。健康なねこでは、体重1kgあたり1日に~45ml程度の水を飲み、26~44mlほどの尿を出すと言われています。たとえば、体重5kgのねこでは、1日の飲水量が300ml、尿量が250mlほどになると多飲多尿の可能性があります。表を参考に、自分のねこの正常な飲水量・尿量を計算してみてください。

最近水を飲む量が多い、またはおしっこに行く回数が多いと感じた場合は、次の方法で2~3日計測してみると良いでしょう。飲水量は家で手軽に量ることができ、自宅での飲水量が分かっていると診断もよりスムーズになります。

〈飲水量の量り方〉

1. 計量カップで水の量を量り、与えた分を記録します。
2. 一日の終わりに残りの水の量を量り、与えた量から差し引いて飲んだ量を計測します。
3. 3〜5日間ほど計測しましょう。

 

少し難しくなりますが、尿量もある程度量ることができます。

〈尿の量の量り方〉

◯ペットシーツを使用している場合:取り換えるときに、未使用のシーツとの重さの差を計測します。

 

◯固まる砂の場合:水50 mLでできる塊の大きさと、排尿後の塊の大きさを比較します。

 

もし飲水量が多くても、与える水の量を減らすことは脱水や病気の進行を招くリスクがあるため、行わないでください。ねこが常に新鮮な水を飲めるようにし、早めに獣医師に相談してください。

 

多飲多尿のときに行う検査

多飲多尿の原因を明らかにするためには、次のような検査が考えられます。

◯血液検査

腎数値、血糖値、カルシウム値やホルモン値を調べる

◯尿検査

尿比重、尿糖などを調べる

◯超音波(エコー)検査

甲状腺、副腎、子宮など、病気になっている可能性のある臓器を観察する

 

多飲多尿の治療

多尿により体が脱水状態になっている場合は、皮下点滴または静脈点滴を行って水分の補給を行ないます。特に脱水が重度の場合には、時間をかけてゆっくりと治療していきます。その後の治療法は、多飲多尿が起きている原因によって異なるため、上で述べたような検査で原因を探っていきます。病気ごとの治療法については、それぞれの病気のページで詳しく説明しているので、ぜひご覧ください。

参考文献
1. Canine and Feline Gastroenterology. pp.151-156. 2013
2. Canine and Feline Nephrology and Urology (Second Edition). pp. 465-486. 2011
3. Problem-based Feline Medicine. pp. 231-260. 2006
この記事を監修した人
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吉本 翔 先生 獣医師・獣医学博士・博士研究員(麻布大学・ペンシルバニア大学)

北海道大学卒業、東京大学大学院にて博士号取得。夜間救急病院や大学病院で多くの患者と向き合う中で、研究やテクノロジーにより獣医療をもっと発展させたいと考えるようになる。現在は、麻布大学(2021年〜)と米国ペンシルバニア大学(2018年〜)で研究員。専門や興味のある分野は、がん、免疫、人工知能、診断推論など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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