ねこの下部尿路感染症について
下部尿路感染症とは
膀胱や尿道といった下部尿路に起こる感染症を、下部尿路感染症といいます。ちなみに、上部尿路には腎臓、尿管などが含まれます。下部尿路で起きた感染が、上部尿路にまで広がることもあります。
尿路感染症は犬と比較するとねこではあまり見られず、生涯でかかる割合は全体の1~2%程度であるといわれています [3]。下部尿路に関する症状を示す10歳以上のねこのうち、50%以上で細菌性下部尿路感染症と診断されるという報告があります。逆に、若齢ねこでは細菌による下部尿路感染はあまり多くありません [1]。
感染の原因となるのは細菌がほとんどですが、稀に真菌やウイルスが尿路に感染することもあります。下部尿路感染症を引き起こす細菌では腸内細菌の大腸菌が約半数を占め、他ブドウ球菌や連鎖球菌などがあります。真菌は、ねこの免疫機能が落ちているときに感染する可能性があります [2]。
危険因子
不妊手術を受けた雌ねこであること、そして年齡が10歳以上であることは、尿路感染症にかかりやすくなってしまう要因として、いくつかの調査で報告されています [3]。一部の調査では、長毛種であることも危険因子として報告されていますが、これはおそらく肛門周囲の汚れが泌尿器についてしまうことが原因ではないかと推察されています [3]。
その他、慢性腎臓病や、糖尿病、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患によっても、下部尿路感染症になるリスクが上がるといわれています [1,3]。
また、尿結石や腫瘍、腎盂腎炎、前立腺炎といった病気があると、下部尿路感染症を引き起こしている病原体を完全に排除することが難しく、再発したり治療が長引いたりする可能性が高くなります [1]。
症状
下部尿路感染症でみられる症状は、他の下部尿路疾患(尿路結石、膀胱炎など)とよく似ています [2]。
・頻尿
・不適切な排尿(トイレ以外の場所で排尿をしてしまう)
・血尿
・排尿時の疼痛(排尿時に鳴く)
・尿のにおいがきつくなる
一方、症状が出ずに感染が隠れている場合もあります。
診断のために行う検査
・尿検査(細菌培養、感受性検査)
尿に白血球が多く含まれていないか(膿尿)、血液が混じっていないか(血尿)、細菌が含まれていないかなどを検査します。特に細菌は、培養してどの細菌かを調べます。この時、どの抗生物質が効くか(感受性があるか)もあわせて検査します。
・X線検査、エコー検査
尿結石、腫瘍の有無を調べ、細菌感染以外に尿路疾患に関連する症状の原因が無いかを確認します。
・血液検査(感染しやすくなる病態がないか)
ねこの健康状態全般を調べるのに加えて、場合によっては猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスに感染していないか、糖尿病になっていないか、ホルモン検査をして甲状腺に異常はないか、といったことを調べ、ねこが下部尿路感染症にかかりやすい状態に陥っていないかを確認することもあります。
治療・予防
治療では、尿検査のときに調べた抗生物質に対する感受性の結果をもとに、感染している細菌に最適な抗生物質を投薬します。
予防については残念ながら今のところ、効果的に下部尿路感染症を防ぐ方法はありません。ただ、トイレが汚れていたり、トイレのある場所が落ち着いて排泄できる環境ではなかったりすると、ねこがトイレを我慢してしまうことがあります。こうなってしまうと、尿路に存在する細菌が長く体内にいることになり、尿路感染症のリスクが上がってしまうことが考えられます。そのため、トイレは清潔に保ち、落ち着いて排泄できる環境に整えてあげましょう。
下部尿路感染症を放っておくと、腎盂腎炎などの上部尿路感染症にまで悪化してしまう可能性もあります。この病気は命に関わる状態になることもあるので、下部尿路感染症を軽んじず、早めの治療が必要です。日ごろからねこの排尿行動に変化がないかチェックし、異常が見られた場合は速やかに病院で診察を受けましょう。
2. Urinary Tract Infections: Treatment/Comparative Therapeutics. S.J. Olin and J.W. Bartges. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2015.
3. Urinary tract infection and subclinical bacteriuria in cats: A clinical update. R. Dorsch, et al. J Feline Med Surg. 2019.
こちらもおすすめ