排尿困難について

獣医師が監修しました
工藤 綾乃 先生

獣医師

排尿困難とは

排尿困難とは、尿がうまく出せない状態を指します。主な症状として、次のようなものがあります。

◯トイレで排尿の姿勢をとるのに尿が出ていない、または少量しか出ない

排尿時に鳴く(痛がる)

血尿

頻尿 など

 

何度もトイレに入る、ポタポタと尿がたれている、といった様子がみられた場合にはうまく尿が出せていない可能性があります。このような状態が続くと、嘔吐や食欲不振といった症状も出てくることがあります。また、命に関わるような深刻な状態に陥る場合もあります。

疑われる病気

排尿困難は、どのような病気によって引き起こされるのでしょうか?

尿道閉塞

膀胱から尿が排泄されるまでの経路である尿道が狭くなっていたり、閉塞してしまったりしている状態を尿道閉塞といいます。尿道閉塞を引き起こす原因として、結石、腫瘍、血餅(けっぺい:血の塊)や栓子(せんし:ミネラルや粘液などが混ざって固まったもの)などがあります。特に雄ねこの方が雌ねこよりも尿道が細いため、尿道閉塞になりやすいです。

全く尿が出なくなると、急性腎不全という腎臓の病気になったり、本来体の外に尿として出される体にとって不要な物質が体内に蓄積されることで起こる尿毒症という状態になったりするリスクがあります。命に関わる状態ですので、尿を出したそうなのに出ていない状態が半日でも続いた場合は早急に病院を受診しましょう。

 

尿道炎

細菌感染などによって尿道に炎症ができている状態を指します。血尿や排尿時の痛みなどを引き起こすことがあります。症状が長引くと、尿道閉塞を起こすこともあります。

膀胱炎

膀胱炎には、細菌の感染による細菌性膀胱炎と、原因が分からない特発性膀胱炎があります。いずれの場合も、排尿困難の症状がでる可能性があります。

他にも、交通事故や椎間板ヘルニアなどによって、排尿するときに必要な筋肉を動かす神経を損傷してしまった場合や、そういった神経周辺に腫瘍ができてしまった場合などにも排尿困難が起こることもあります。

 

検査

排尿困難が見られるねこに対しては、一般的な血液検査などに加えて、次のような検査をします。

身体検査

長時間尿が出せていない状態が続いていると、膀胱がある下腹部を触ると、大きく膨らんでいるのを確認できることがあります。また、カテーテルを尿道に入れ、尿道が開通しているかを確認することもあります。

尿検査

尿の中に結石の存在を示す結晶が混じっていないか、血球や過剰なタンパク質などの尿路の炎症を疑う物質が混じっていないかなどを調べます。また、尿路への細菌感染の有無を調べるために、尿を培養して細菌を分離することもあります。

画像検査(X線検査、エコー検査)

結石など、尿路を防いでいるもの(結石、腫瘍など)が無いかを調べることができます。

MRI検査

神経に異常があると考えられる場合は、MRI検査を実施することもあります。この検査では全身麻酔が必要です。

 

特に注意したい症状

排尿困難の症状に気づいた時点で出来るだけ早く病院を受診することが必要ですが、その中でも、真っ赤な血尿が出ている場合や、何度も嘔吐している場合は、程度が深刻な可能性が高いです。 普段からしっかり排尿をしているかチェックをし、普段と異なる様子が見られた場合にはすぐに獣医師に相談することが重要です。

 

参考文献:

1. Lower urinary tract transitional cell carcinoma in cats: Clinical findings, treatments, and outcomes in 118 cases. M.A. Griffin, et al. J Vet Intern Med. 2020.

2. Recent Concepts in Feline Lower Urinary Tract Disease. R.A. Hostutler et al., Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2005.

3. Recurrence rate and long-term course of cats with feline lower urinary tract disease. E. Kaul, et al. J Feline Med Surg. 2020.

監修者

工藤 綾乃 先生 (獣医師)

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。