ねこが水を飲まない

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工藤 綾乃 先生 獣医師
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水を飲まない弊害

ねこはその祖先が砂漠など水の乏しい環境にいたとされており、もともと水を多くは飲まない生き物です。

ねこのルーツとは

特に冬場気温が下がるとさらに水分摂取量が減ります。そんなねこですが、あまりにも水を飲む量が減ってしまうとさまざまな不調が起こってしまいます。まず考えられるのは脱水です。脱水の状態では体の中の水分量が不足するだけでなく、ナトリウムやカリウムといったミネラルのバランスが崩れてしまい、最悪の場合脳や神経の障害につながります。

またそのほかの弊害として体の水分量が少なくなることで血の巡りが悪くなり、腎臓など重要な臓器への血流が減ることにより、腎臓病が悪化することもあります。さらに、水分が出ていくのを防ぐために尿が少なく濃くなった結果、尿管結石や膀胱結石など尿石症のリスクが高まります。

ちなみに、健康なねこでは、体重1kgあたり1日に最大で45ml程度の水を飲み、26~44mlほどの尿を出すと言われています。ここで注意したいのは、下痢や嘔吐の症状があると通常より多くの水分がからだの外に出ていくため、ある程度飲水量があったとしても脱水におちいる可能性があるということです。糖尿病や腎臓病など尿量が過剰に増える病気の場合でも、通常より多く水を飲まないと容易に脱水状態になってしまいます。必要な水分量というのはその時の状態や病気によって変わりうるので注意が必要です。

 

水を飲まない原因

ねこが水を飲まない理由は様々です。食欲不振の結果飲水量が減ることもあれば、歯肉炎や歯周病など口の痛みから水を飲もうとしないこともあります。

その他にも関節炎などで首や腰が痛くて水を飲むために屈む姿勢が取れないなど、一見関係なさそうな病気や病態が原因になることもあります。

病気以外の理由としては、水や水入れがねこにあっていないこともあります。冷たい新鮮な水を好むねこがいれば、常温の水を好むねこもいますし、蛇口滴るような流れのある水を好むねこもいれば、水入れに入った水を好むねこもいます。水入れひとつとっても、陶器の水入れを好んだり、トイレから離れた静かで落ち着いた場所に置かれた水入れを好んだり、ねこそれぞれに好みがあるのでそれぞれに合った方法で水をあげるようにしましょう。さらに、先に述べた関節炎のねこの場合では、水入れを床に置くのではなく台の上に置くなど高さをつけてあげることで水を飲みやすくなったりもします。ねこの体調や疾患に合わせた配慮も欠かさず行ってあげるとよいでしょう。

診断のために行う検査

・身体検査

ねこの脱水状態を確かめる一番一般的な方法は皮膚の張りをチェックすることです。ねこの肩あたりのよく伸びる皮膚をつまみ上げ、それが戻るまでの時間を測ります。健康なねこの皮膚は張りがあるためすぐに戻りますが、脱水状態のねこでは数秒かけてゆっくりと皮膚がもとの位置にもどります。他にも口の中の粘膜が濡れているかなど指標も脱水の確認に用います。

・血液検査

腎臓の数値や血液の濃さなどいくつかの数値が脱水の指標として用いられます。また、ナトリウムなどのミネラルも体の水分量に応じて変化します。

 

普段から気を付けるポイント

飲水量の低下や脱水に気づくためには普段からねこがどれくらい水を飲んでいるのかを把握する必要があります。水入れに注いだ量から水を交換する際に残っていた量を引くことで飲水量は簡単に測定することができます。

毎日測らなくてもよいですが、ねこが元気なときに数回測って、健常時の飲水量を記録しておくと、体調を崩したときなど役に立つはずです。

ほかにもねこが積極的に水を飲めるような快適な飲水環境をつくるために、ねこの好みに合った水入れの器や設置場所を整えてあげましょう。

いくら工夫しても水を飲まない、という場合はフードをウェットフードなどに変えることで、フードそのものの水分量を増やすことも有効です。ドライフードは水分が10%程度なのに対してウェットフードは70%もあり、普段の食事にウェットフードを追加するだけで簡単に水分量を増やすことができます。食事であげることが難しければおやつなどであげることもできるので、ぜひ試してみてください。

この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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