慢性腎臓病にも関係が?ねこの高血圧症とは。血圧の測り方や原因、治療について解説

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原田 優眞 先生 獣医師
目次

ねこの血圧の測り方

人と同じように、ねこでも高血圧は体に悪影響を与えます。血圧は動物病院で測ることができますが、一口に血圧測定と言っても、その測り方には様々な方法があります。

観血的方法

最も正確な測定方法で、動脈に直接細いカテーテルを入れて血圧を測定します。ですが、この方法は麻酔が必要であったり、器具や熟練した技術が必要であったりと一般的に行うには難しいことが多いです。そのため、通常の診察では他の方法を用いて血圧の測定を行なうことが一般的です。

オシロメトリック法

カフ(腕帯)で腕や足、尾を締め付けて圧力を加え、圧力を下げていく過程で血流によるカフの圧変化を捉える方法です。病院などに置いてある、腕を差し込んで使う血圧測定の機械のイメージですね。

ドップラー法

超音波を用いて血流の音を聞きながら、カフ(腕帯)で上流の血管を締めていきます。締める圧が血圧を上回ると血流が途絶えて音が聞こえなくなることから、音がぎりぎり聞こえる時点の血圧を収縮期血圧として測定する方法です。 

 

高血圧症とは

収縮期血圧が150~159 mmHgで前高血圧、160~179 mmHgで高血圧、180 mmHg以上で重度高血圧とれています [1]。しかし、ねこの血圧は緊張やストレス、感情の変化(怒りなど)で大きく変動してしまいます。ねこによっては病院で診察台に載せられたり、白衣を見ただけで血圧が高くなってしまう子もいるため、ねこが環境に慣れるように時間を置くなど、正確な血圧を測るための工夫が必要です [1]。

症状

高血圧の状態が続くと、影響を受けやすい臓器から症状が現れます。

眼:網膜はく離、眼内出血

眼の血管に強い圧力が加わることで、血管が破綻し眼の内部に出血が起きる眼内出血や、眼の奥にあり視覚情報を受け取るための網膜がはがれる網膜剥離という状態になります。こういった状況では、突然視力が失われてしまい瞳孔が開いたままになったり、壁にぶつかったりなどの症状が出ることがあります。高血圧のねこの40~70%で眼の症状が認められたとの報告もあります [2]。

腎臓:タンパク尿、腎数値の上昇など

腎臓も血圧の影響を受けやすい臓器の一つです。腎臓が障害を受けることで、通常であれば出てこないはずの「たんぱく」が尿の中に出てきます。また血液検査で腎臓の数値が異常値を示すこともあります。 

脳:発作、運動失調など

運動失調やけいれん発作などの神経症状が出るねこもいます。急にふらつきが増えた場合には注意が必要です。

心血管系:鼻出血、不整脈など

血圧の上昇に伴って鼻血が出たり、血液の流れが悪くなることにより心臓の肥大などが起こります。

 

原因

高血圧症は、特発性(原因が特定できない病態)の場合もありますが、約80%の高血圧では他の併発疾患が関係し、二次性に高血圧が生じていると言われています [1,2]。二次性の高血圧の場合、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症、心疾患などが関係していることが知られています。つまり、高血圧が原因で腎臓や心臓に影響が出ることもあれば、逆に腎臓や心臓に先に異常が起きて二次性に高血圧が生じることもあるということです。

慢性腎臓病では、腎臓の末梢血管が硬くなり血が流れにくくなることで血圧が上昇したり、腎臓から分泌される血圧を調節するホルモンの影響で血圧が上昇したりします。

甲状腺機能亢進症では、異常に分泌された甲状腺ホルモンの影響で心臓の収縮力・収縮回数が上がり、血圧の上昇が起きます。甲状腺機能亢進症のねこの約25%で高血圧が起こるともいわれています。

心疾患でも血圧が上がることがあり、たとえばねこで多い肥大型心筋症では心臓の内腔が狭くなり、一回の収縮で全身に送れる血液量が少なくなります。全身に送る血液量を増やすため、代償的に血圧があがってしまいます。

 

診断のために行う検査

血圧測定

基本的に高血圧の診断は血圧測定で行います。ですが、先に述べたようにねこの血圧はストレス下などで上昇してしまうため、診断のためには複数回の測定が必要なこともあります。

血液検査

腎数値の異常や甲状腺の数値の変化を見ることで、高血圧の根本的な原因として腎不全や甲状腺疾患が隠れていないかどうかを確認します。

エコー検査

腎臓の構造異常や甲状腺の大きさ、心臓の動きや内部構造などを見ることで腎不全や甲状腺疾患、心疾患などの鑑別を行います。 

尿検査

尿の性状や、腎不全に伴った変化が生じていないか調べます。

眼底検査

目の奥の網膜に出血がないかや、網膜剥離がないかを確認します。

これらの検査を組み合わせることで、高血圧を診断するだけでなく、根本的な原因が無いか精査することが大切です。

 

治療

降圧剤と呼ばれる血圧を下げる様々な薬を単剤、または組み合わせて使用します。降圧剤には作用が違うさまざまな種類があります。代表的な降圧剤の例を以下に示します。

急に血圧を下げすぎてしまうと、逆に腎臓やその他の臓器の負担になってしまうことがあるため、治療は獣医師と相談しながら慎重に進めましょう。

・カルシウムチャネル遮断薬

血管平滑筋の細胞はカルシウムがカルシウムチャネルに結合することで収縮します。カルシウムチャネル遮断薬(アムロジピンなど)はこの結合を阻害することで、血管の収縮を抑え、血管抵抗を下げることで降圧作用を示します。

・ACE阻害薬

腎臓から分泌されるレニンによりアンジオテンシンⅠが生成され、アンジオテンシンⅠはACE(アンジオテンシン変換酵素)によりアンジオテンシンⅡになります。このアンジオテンシンⅡが血管収縮を引き起こしたり、体液の貯留を引き起こすことで血圧の上昇が起こります。ACE阻害薬(エナラプリルなど)はこのアンジオテンシンⅡへの変換を阻害することで降圧作用を示します。

・βブロッカー

ノルアドレナリンなどがβ受容体に結合することで、筋収縮が起こります。βブロッカー(アテノロールなど)はその結合を阻害することで心臓から出る血液量を抑える作用などにより降圧作用を示します。

・利尿薬

利尿薬(フロセミドなど)は、尿として水分を多く排出します。全身の血液量が減るため、降圧作用を示します。

 

その他、基礎疾患(腎疾患、甲状腺疾患、心疾患など)の治療も必要ですが、詳細は疾患のページを参照ください。

 

注意点

若いねこに比べて、11歳を越えたねこで高血圧が多くなるという報告もあるため、特に高齢になってきたら血圧の上昇に注意が必要です [3]。

また、高血圧と診断されたねこの生存期間の中央値は260~400日とも言われており、早期発見・治療が重要です [2,4]。少しでも気になる症状がある場合には、動物病院に相談しましょう。

 

参考文献
1. Guidelines for the identification, evaluation, and management of systemic hypertension in dogs and cats. S Brown et al. J Vet Intern Med. 2007.
2. Effect of control of systolic blood pressure on survival in cats with systemic hypertension. R E Jepson et al. J Vet Intern Med. 2007.
3. Epidemiological study of blood pressure in domestic cats. A R Bodey and J Sansom. J Small Anim Pract. 1998.
4. Survival after diagnosis of hypertension in cats attending primary care practice in the United Kingdom. M Conroy et al. J Vet Intern Med. 2018.
この記事を監修した人
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原田 優眞 先生 獣医師

広島出身。北海道大学を卒業後、関東の動物病院で犬・猫・エキゾチック動物などの診療に従事。犬だけではなく、いろんな動物の医療が充実するといいなと思ってます。興味のある分野はエキゾチック動物、野生動物、血液など

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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