ねこにとって快適な環境づくり〜前編〜

山田 良子 先生
獣医師・獣医学博士
特任研究員(東京大学)
はじめに
日本では、現在約964万頭のねこが飼育されていると推計されています [1]。沢山のねこ達が、私達人間と一緒に暮らしているのですね。本記事では、ねこが健康に暮らすために欠かせない、「ねこにとって過ごしやすい環境」をつくるポイントをご紹介します。
ねこにとって快適な環境をつくるための指針
ねこに特化したアメリカの学会であるAmerican Association of Feline Practiceと国際的なねこのチャリティー団体であるInternational Society of Feline Medicineは、2013年に「猫にとって快適な環境づくりのためのガイドライン(AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines)」を発表しました [2,3]。このガイドラインでは、ねこの健康的な環境のための5つの柱として、以下の5項目が提唱されています。
1. 安全な場所を用意すること
2. 猫にとって重要な以下の物資を複数箇所、場所を離して用意すること
水、トイレ、爪研ぎ場所、遊び場所、休息または就寝場所
3. 遊びおよび捕食行動のできる機会を設けること
4. 人-猫間の社会的関係は、好意的で一貫性があり予測可能であること
5. 猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること
1. 安全な場所を用意すること
ねこにとっての安全な場所とは、1頭だけで誰にも邪魔されずに過ごすことができる場所です。猫にとって快適な環境づくりのためのガイドラインでは、段ボール箱やキャリーケースなど、ねこが隠れられる場所を用意することを勧めています。また、キャットタワーや棚など、高い場所から周囲を見晴らせる“見晴らし台”が望ましい場合もあります。
2頭以上飼育している場合は、それぞれのねこが安心して過ごせるように複数の隠れ場所や見晴らし台を用意してくださいね。また、子ねこや高齢のねこがいる場合は、ステップやスロープなどを設置して、ねこがお気に入りの場所にアクセスしやすくなるような工夫が必要になります。
2. 猫にとって重要な物資を複数箇所、場所を離して用意すること
猫にとって快適な環境づくりのためのガイドラインでは、ねこが生活する上で重要な物資としてフードや水、トイレ、爪研ぎ場所、遊び場所、休息(就寝)場所などが挙げられ、これらを離れた場所に設置することが推奨されています。
2頭以上のねこが一緒に暮らしている場合は、フード皿や水飲み場、トイレ、爪研ぎ場所、遊び場所、休息(就寝)場所を複数設置し、それぞれのねこが好きな場所を選べるようにすることで、物資を巡る競争やストレスを減らすことができます。トイレや水飲み場にアクセスできないと泌尿器系疾患をはじめとする病気に繋がる可能性もありますので、ねこが健康に暮らすためには快適な環境づくりが重要ですね。
ねこにとって快適な環境づくり〜後編〜の記事では、5つの柱のうちの残り3項目
3. 遊びおよび捕食行動のできる機会を設けること
4. 人-猫間の社会的関係は、好意的で一貫性があり予測可能であること
5. 猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること
の内容をご紹介します。
参考文献:
1. 令和2年全国犬猫飼育実態調査, 一般社団法人ペットフード協会, 2020. https://petfood.or.jp/data/chart2020/index.html (アクセス日:2021/12/15)
2. AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines, S L H Ellis et al. J Feline Med Surg. 2013.
3. 猫にとって快適な環境づくりのためのガイドライン, S L H Ellis et al. 藤井仁美 訳 Felis. 05 113-114. 2014.

山田 良子 先生 (獣医師・獣医学博士)
獣医師, 博士(獣医学)。東京大学農学部獣医学専修及び同大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程卒業。動物と人間が共に暮らしやすい社会づくりに貢献することを目指し、東京大学附属動物医療センターにて行動診療に従事(特任研究員)。専門は動物行動学、臨床行動学。愛猫は11歳の白猫「ユキ」。