外飼育のリスクについて

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工藤 綾乃 先生 獣医師
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外は危険がたくさん

ねこを家の中と外を自由に行き来できるようにしているご家庭もあるかもしれません。しかし、ねこにとって家の外は危険がたくさんあります。この記事では、ねこを外飼いすることによって生じるリスクについて考えてみましょう。

・交通事故

海外でも交通事故は多い死亡原因の一つです [1]。骨折や脳震盪などが生じることがあり、最悪の場合には亡くなってしまう可能性もあります。また、命を取り留めた場合にも生涯にわたって後遺症が残るといったことも考えられます。

・ウイルス・細菌感染

家の外では他のねこや動物と接触する機会があります。こういった接触により、猫白血病ウイルス(FeLV)猫免疫不全ウイルス(FIV)、バルトネラ菌(猫ひっかき病の原因菌)などの病原体に感染するリスクが高くなります。

ねこがFeLVやFIVに感染すると、免疫不全を引き起こして様々な病気にかかりやすくなり、ときに深刻な状態に陥る可能性があります。

・寄生虫・原虫感染

他の動物との接触は、ノミ、ダニといった外部寄生虫(皮膚や耳など、体の表面に寄生)や、蠕虫やプロトゾアなどの内部寄生虫(体内の臓器に寄生)、トキソプラズマなどの原虫にも感染するリスクが高くなります。

外部寄生虫は痒みをはじめとする不快感によってねこの生活の質を下げる可能性があり、また内部寄生虫や原虫は高齢のねこや幼いねこでは重篤な症状を引き起こすことがあります。

・他の動物による被害

放し飼いの犬や、その他様々な野生動物によってねこが襲われてケガをする、または最悪の場合殺されてしまう可能性もあります。

・ねこにとって毒であるものの誤食

農薬や殺虫剤で汚染された水を飲んでしまったり、殺鼠剤(ネズミを殺す薬)を食べたネズミをねこが口にして、間接的に殺鼠剤を食べてしまったりする可能性があります。こういった薬物は、嘔吐や食欲不振、内出血などの中毒症状を引き起こすことがあります。

・望まない妊娠

不妊手術を受けていない雌ねこの場合、特に発情期では雄ねこと交尾をし、妊娠してしまう可能性が高いです。

・迷子/盗難

外にでたものの家に帰れなくなってしまったり、知らない人に連れていかれたりすることも考えられます。

・虐待

ニュースでもよく見られるように、残念ながらねこを虐待する人がいます。熱湯を掛けたり、しっぽや耳を切ったりといったかなり残虐な行為をする人もいる、という事実を知っておきましょう。

外飼いのねこでは、平均寿命が短くなるというデータがあります。一般社団法人ペットフード協会の「2020年度全国犬猫飼育実態調査」によると、完全室内飼育のねこと外との行き来が可能なねこの寿命はそれぞれ16.13歳と13.57歳で、完全室内飼育のねこの方が屋外飼育のねこよりも2.5年ほど寿命が長かったようです [1]。この理由として、上で述べたようなことが関連していると考えられます。

また、ねこへのリスクだけでなく、飼い主にもリスクがあることを理解しておきましょう。例えば、バルトネラ菌やトキソプラズマといった病原体をねこが持ち込むと、人にも感染し、症状を引き起こす可能性があります(「ねこから人に感染する病気」のリンク)。その他、勝手に他人の家の敷地内に入る、ごみを漁る、鳴き声がうるさい、敷地内で糞尿をするといったことから、近隣住民とトラブルになることも考えられます。

 

対策

上で述べたリスクを避けるために完全室内飼育にする場合は、脱走防止を徹底しましょう。鍵が閉まっていないと、ドアを上手に開けてしまうねこもいますので気を付けましょう。また、ご家族が外やベランダに出る場合には、短時間でも必ずドアを締めるようにしましょう。いつもは出ていかないねこでも、急に大きな音に驚くなどした際に飛び出てしまう可能性があります。

どうしても外飼いを避けられない場合は、迷子や事故に遭ってしまった場合に備えて、マイクロチップや、名前や連絡先を書いた迷子札・首輪をつけるようにしましょう。ちなみに、2022年6月から、ブリーダーやペットショップなどの業者は犬やねこにマイクロチップを装着することが法律で義務付けられます。すでに飼っている人は、マイクロチップの装着は努力義務とされていますが、もしもの事を考えて装着しておくとよいでしょう [3]。

ワクチン接種は、ねこを危険な病気から守るのに有効な方法の一つです。飼育環境に関わらず全てのねこが受けるべき「コアワクチン」の接種を行ないましょう。

その他、望まない妊娠を防ぐため、またメスねこの発情期の鳴き声やオスねこのスプレー行為を抑えるためにも、繁殖を望んでいないのであれば不妊手術を受けておくと良いでしょう。

最後に、もし外飼いをするのであれば、近隣住民からの理解を得ておくことがマナーです。また、近隣住民の敷地内で粗相があったときは、飼い主としてしっかりと責任をとらなければなりません。トラブルを避けるためにも、きちんと把握しておくことが必要です。

参考文献
1. 一般社団法人ペットフード協会(訪問日:2022/1/17)
2. Uncontrolled Outdoor Access for Cats: An Assessment of Risks and Benefits. S.ML. Tan, et al. Animals (Basel). 2020
3. 環境省 犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A (訪問日 2022/1/18)
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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